あの丘でもう一度。

長かった入学式が終わり、講堂を出ると真っ青な空が広がっていた。雲ひとつない綺麗な青空で、思わず翔の顔も綻ぶ。

「翔って、空好きだよな。」「何、ダジャレ?」友哉のしょうもないボケに笑ってつっこめる、幸せだなあと心の中で呟いた。

と、その時だった。翔の前をまた誰かが通過した気がして慌てて周りを見る。息が詰まりそうになった。

翔の目線の先には中学生ぐらいだろうか、一人の女の子がオドオドしている。。「朱音…?」思わず声が漏れる。大人にはなっているが確かにその少女は朱音にそっくりで、目が離せない。

「翔、どうした?」友哉が翔の目線の先を追う。「なにおまえ、ロリコン趣味?」今は茶化しに乗っている気分じゃない。

「あの子、誰?」こんな小さな街だ。知らない子なんて少ないはず、そんな希望を持って聞いてみたが友哉の答えは呆気なかった。「いや、見た事ないなあ…誰だろ。」

翔の動悸がますます早くなる、朱音にしか見えないその少女と目が合った。少女がこっちに駆け寄ってくる。翔は思わず後退りした。

「こんにちは!私、最近転校してきたばっかで、杉野中学の新1年生です!!迷子になったので道教えてください!」
「迷子…?」
「はい!入学式終わってあと帰るだけだったんですけど中学校探検しようとしたら迷子になりました!」

元気よく言ってのける少女はあの頃の朱音のままだ。彼女は朱音じゃない、わかってるのに気持ちが追いつかない。

中学校は確かこの大学の裏側だ。奥に奥に行くうちに迷子になったのだろう。

「分かった、ついておいで。」翔も正直全く分からないが友哉に道案内は任せることにした。「友哉いいよな?」呆れたように頷いたのを見届け、翔たちは、杉野中学へと向かった。
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