あの丘でもう一度。
大勢の大学生でごったがえすキャンパスを抜け、少し茂みのような場所を進んでいく。

先日この街に引っ越してきたという中学生を案内している最中なのだ。

「ところで、君名前は?」翔がずっと気になっていたが怖くて聞けなかったことを友哉はズバッと聞いてくれた。

「黒坂茜です!」「朱音、、?」心臓がドクンドクンと跳ねる音がする。あまりにも似すぎた彼女からずっと想い続けていた名前が出てきたのだから無理もない。

「草かんむりに西って書いて茜です!」彼女は無邪気に笑う。友哉が茜ちゃん可愛い名前だねなんて褒めてるのがどこか遠い場所のように聞こえる。

ぐわんぐわんと頭が揺れる。ドクンドクンと心臓が跳ねる。「大丈夫ですか?」茜の声がした。大丈夫じゃない、大丈夫に見えるのか、思わずしゃがみこみ頭を抱えた。

「わりぃ友哉。体調悪くなっちゃったから俺ここで待ってるわ。その子送ってきてあげて。」わかった、そんな返事が聞こえ、2人の足音が遠ざかっていった。

こんな偶然あるのか?状況を整理したい。だが、あたまがまわらない。

10年振りに戻ってきた街で、死んだはずの幼なじみと同じ名前のそっくりな少女に出会ったなんて、そんなうまい話あるわけがない。朱音を求めすぎだがための幻覚に決まってる。

しかし、何度思い返しても、笑い方、喋り方、仕草が朱音そのものだった。成長したらこんな感じになるんだろうなと翔が思い描いていた朱音なのだ。頬を温かい何かがつたる。「大丈夫かよ。」誰かの声が聞こえて顔をあげた。

「友哉…」苦笑いした友達が翔の目線に合わせてしゃがみこむ。

「あの子は朱音ちゃんじゃねえぞ。」分かってる、分かりすぎてる、だから頭の整理がつかない。

「似てたよな?」掠れた声で問いかけた。友哉はそんな翔の頭をポンッと優しく叩くと行くぞ。と歩き出す。

習うように立ち上がり翔も歩き出した。気が付けば夕方が迫っているのか空が赤く染まり始めている。1度立ち止まり大きく深呼吸をして、先を行く友哉の後を追った。
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