イケメン従者とおぶた姫。
書物を読み終えてフウライは


「…このダリアって男が、正真正銘のクズだって事だけは分かった。
金と権力の為に、バドと夫婦になって浮気三昧。挙げ句の妻であるバドを馬鹿にするような言動…。…最悪だ、胸糞過ぎる。」


愛妻家であるフウライにとって、ダリアのした事は本当に許せなかった。

そして、こんなクズに寄ってくる愛人達にもクソ反吐が出る思いだった。


「その話は置いて。気になるわ。
この書物に記載されているダリア。
まるで、何度か”生まれ変わった”様な発言をしている様に感じるわ。

それも、“罪を犯して人間になった”つまり、ダリアは元々、人間ではない何者かだったって事。この一部については、ムーサディーテ国の王位継承者にも伝えられてるわ。」


シラユキは、二つの国に伝わる物語を照らし合わせ考え、更に話を続けた。


「そして、さっきの物語と私達の国に伝わる物語を掛け合わせる事ができるわ。
きっと、それがこの物語の“真実”に近いに違いないわ。

ここで分かるのはダリアは

【天を守る剣】

ダリアは、天にとっての“全て“である。全てって意味は分からないけど。つまり、こういう事かしら?
有能であるダリアは、自分が守るべき主の無能さに嫌気がさしていた。

見捨てようにも、乳飲児の頃から主を見守っていたダリアはどうしても情を捨てきれず苦しんでる。

そんなダリアの葛藤を無碍にするように、生まれ変わっても生まれ変わっても主はダリアから逃げてしまう。

何故、自分の前から姿を消してしまうのか理解できないダリアは、生まれ変わっても同じ過ちを繰り返している。

そんな所かしら?」


シラユキの解読に、なるほどと思いつつ、何故そんな事も分からないんだ。ダリアは頭がいい筈では?と、フウライとベス帝王は頭を抱えた。


「…確かに、学者の多くは人は輪廻転生を繰り返す中で、生まれ変わる度に前世の記憶は消える。と、考えているらしいですからね。
それを考えれば、ダリアは生まれ変わっても生まれ変わっても前世の記憶がないので、同じ過ちを繰り返してばかりいるという事でしょう。エンドレスってヤツですね。」


ダリアの馬鹿さ加減に、頭を痛めながらフウライは人の生死について研究している学者達の説を参考に自分の意見も話した。


「そうね。だから、ダリアは考えたのね。
その過ちを繰り返したくがない為に自分は記憶を持ったままで、前世の記憶のない主に会いさえすれば今度こそ上手くやれると思ったのね。」


「どうして、自ら嫌ってる者に近づこうとするのだ?…理解に苦しむ。
そんなに嫌ってるなら、その者に近付かず、その者とは無関係の場所で自由に生きればいいのではないか?」


と、ベス帝王もダリアの心情に理解に苦しんでいた。


「…確かにそうですね…
どうして、そこまでしてダリアは主に執着するのからか?」


やっぱり、これだけはシラユキもどうも理解し難かった。う〜ん…と考え込む二人に


「これ以上は考えても時間の無駄です。急ぎましょう。」


ハナの事が心配で気が気でないフウライは二人を急かした。


「…気持ちは分かるわ。けど、“醜女と絶美の宝石”に関する様々な情報をかき集めたけど、その情報はダリア復活のヒントだけだったわ。ダリアの元へ行く術を記したものは見当たらなかった。
…きっと、ダリアの元へ行く事ができるのは、【ダリアの天】のみ。おそらく、商工王達はそれの巻き添えでダリアの元へ行く事ができたに過ぎないんだと思うわ。」


「…クソッ!それじゃあ、せっかく調べても俺そこに行く事もその事を伝える術さえないじゃないか!!」


と、絶望を滲ませる二人の様子を見て、ベス帝王は声を掛ける事に少し戸惑ったが


「実は、もう一つ、我が国の王位継承者にだけに伝わる話がある。
自分は興味がなく適当に促して聞いていた話だ。この物語自体くだらないと思っていたから、この話をするのもなと話すべきか迷っていたのだが…。

役に立つかは分からないが…」


躊躇いがちに話すベス帝王に、フウライはカッと目を見開きテーブルに手を乗せると前のめりになり


「ぜひ!是非、お聞かせください!!」


と、物凄く凄まれて、ベス帝王はそれに圧倒されながらコクコクうなづいた。



「【ダリアの推測】


最後にダリアは言った。

『お前以外の愛人達には俺様の復活方法は教えてない。

おそらく、生き残った頭のいい俺様の愛人は俺様を復活させたいが為、あらゆる手段を使って最終的にお前に行き着くだろう。

もし、なんかあったら“この宝箱”を開けろ。

これは緊急事態の時にしか開かないようになってる。』


そう言って、宝石の他に宝箱も預かったとされている。

だが、残念な事に我がにはダリアからノアが預かったとされる宝石も宝箱もない。
だから、余はこの物語は誰かが作った空想上の物語なのだと思ったのだ。」


ベス帝王が話してくれた内容の一部に自身も感じた共通点がありシラユキは、ベス帝王に自分の持っている情報を話した。


「…そうなのですね。実は、我が国ムーサディーテ国にもダリアから託されたという宝石が見当たらないのです。
それと、物語を聞いていて気になった点があります。
ベス帝国に伝わる物語では、ムーサディーテ国
の初代は女王となっていますが、我が国では王となっています。何か、この事件に関係あるのではと考えているのですが…。

フウライの報告ではこの事件を起こした者は、相当な幻術使いらしいのです。この物語出てくるノアも幻術使い。
そして、我が国初代ムーサディーテ国王も幻術使いだったとされているのです。」


そこで、フウライは今がその時だと判断しある事を切り出した。


「この応接室に来る途中なのですが、商工王達と一緒に居たと思われる幻術使いらしき者の気配を感じた場所があるのですが、そこへ入る許可を頂けませんか?」


そうなのだ。フウライは、この部屋に通される途中にあった通路が気になっていた。
何故なら、ハナの声を聞く為…いや、騎士団長に任務完了の報告をする為連絡を試みても通じない。原因を探った時、連絡を妨害する魔導を感じたのだ。まさに、その魔力と同じものが残っている場所があったのだ。

その場所の事を話すとベス帝王はとても驚いた表情をしていた。


「…言われてみれば!何故、今までそこの場所に気が付かなかったのか。
今まで、そんな場所があったとも気が付かず過ごしてきた。言われなければ違和感も無いまま何事もなく過ごしていたに違いない。
確かに、今までこんな場所があったのかと思う場所がある。」


そんな様子を見てシラユキはフウライと顔を見合わせ


「そこに案内していただけますね?」


と、強くベス帝王にお伺いを立てた。


「もちろんだ。」


三人は、すぐさま応接室を出て問題の場所へと向かった。


「ここの廊下だ。こんな分かりやすい所にあったというのに何故、今まで気が付けなかったのか不思議だ。」


廊下を見てベス帝王が驚きの声をあげる。と、同時に


「ここまで分かっていて何故、直ぐにこの話をしなかったのだ?最初から、この話をしていたらもっと早くに事が進んだのではないか?」


ベス帝王は、もっと早く教えてくれたら良かったのに何故それを早く言わないんだと言わんばかりにフウライを遠回しに責めた。


「もちろん、この事は直ぐにでも話す事は可能でしたが、素性も知らなければ面識もない私がそれを言った所で誰がそんな事を信じますか?
最初からそれを言ってしまったなら私は、頭のおかしい奴だと警戒さる可能性が高かったので様子を見ていました。
直ぐに話さなかった事を心より謝ります。」


フウライの説明を聞きベス帝王はなるほどと納得しつつ、そこまで見通して行動していたフウライの計画性に驚いていた。
さすが、商工王国副騎士団長だと。その名は伊達じゃないと感心した。

叔母のシラユキも甥の頭の良さにビックリである。人の心理も考えての冷静な判断!!
さすが、私の甥だわ!もう、天才軍師!!凄い、凄いっ!!
後で、フウライの父、母にも教えてあげようと思った。あと、ハナさんにもね。


「この場所からおくの場所にかけて独特な魔力を感じます。おそらくですが、この通路が見つけられないよう目眩しに壁にでも見えるよう幻術が施されていたのだと思います。
だが、幻術使いが消えた今、魔導の効果は消え元に戻ったのではないかと考えられます。」


フウライは自分の感じ取った魔導の気配、自分の持っている情報から様々な憶測をし仮説を立て話した。


「…なるほどな。生まれた時から今まで、余はその者に欺けられたまま過ごしてきたという事か。」


ベス帝王は、それさえ気が付かず過ごしてきた自分を情けなく思い同時に無力さを感じてしまった。


「…感じます。その魔力と共に別の魔力が四つ。その中の一つは商工王のものです。そして、我が騎士団長の気も感じます。」


そう言って、フウライはその場所へと足早に歩いて行く。フウライの案内で、シラユキとベス帝王はそれについて行っているのだが

通路を抜けるとベス帝王が今まで見た事のない部屋がいくつもあった。こんな場所があったのかと驚くしかない。

そして驚くべき事は、いくつもある部屋や廊下があるのに迷いなく歩くフウライだ。
何故、来た事もない場所を迷いなく進む事ができるのか。この者は、一体何者なのだろうかと驚くしかない。

そして、フウライ達は一つの部屋の前にたどり着いた。


「ここです。ここが商工王達が最後いた場所と思われる部屋です。開けても宜しいですか?」


「かまわない。」


ベス帝王は、フウライに許可し
遂に部屋の扉が開かれた。


その部屋は、客室と思われる部屋である。
だが、シラユキとベス帝王はもしかしたらと確信に迫っていた。ここに、商工王達がいたのかもしれないと。

何故なら、テーブルの上には茶菓子や飲みかけの紅茶があったから。そして、三つあるうちの一つのベットが少し乱れていて、そこを誰かが使っていた形跡があったからだ。

いよいよ、確信に迫ってきたとピリリと緊張感が走る中、フウライは床に落ちている指輪に気が付き拾い上げ目を見開いた。


「間違いありません。この指輪は我が国の王にしか許されない紋様が施されています。まさに、ここに我が国の王が居たという証拠です。」


三人は確信した。ここに商工王達が居て何かがあったのだと。
そして、フウライがここを探りあげるだろう予測をして、自分達がここに居たという事実を残す為にワザと指輪を落としていった商工王に脱帽だ。

…それもそうと…


テーブルの上ある“古びた宝石箱”。


三人は、まさかこれが?と、思わず生唾を飲み込んだ。

フウライは何やら呪文を唱え、何らかの魔導を発動させた。辺りは呪文の古代文字が紫色に輝き無数に飛び出しそれは箱を包み込んだ。

そして、箱がカタカタと動くと
やがて光は消え箱の動きは止まった。

すると

「この箱は触れても大丈夫な様です。何の罠もありません。」

フウライは躊躇いも無くその宝石箱を手に取ると

「どうやら、この箱は蓋を開ける事で魔導が発動するようになっている様です。」


と、二人に説明した。


「…昔から思ってたけど、アラガナは本当に何でもできちゃうのね。その内、“大魔道士”とか“大賢者”にでもなっちゃいそう。我が甥ながら末恐ろしいわ…。」


「…こんな魔導なんて見た事も聞いた事もないぞ?」


フウライのチート過ぎる能力に、シラユキとベス帝王はただただ驚くしかなかった。


「…この魔導ですか?どこぞの脳筋ゴリラが何も考えず突っ走ってはバカにも魔導の罠に掛かかりよく困らせてくれたので、開発せざるを得なかったんですよ。ほんっとうに、あの人はバカなんですよ!」


と、フウライは頭を抱え苦々しいため息をついていた。そんな様子のフウライに

…ああ、ハナ団長に振り回されて相当苦労していたんだなと、シラユキとベス帝王は何となく察し苦労性だなと心の中でねぎらいつつ
それで、こんな魔導まで開発して使いこなしてしまうフウライの溢れんばかりの才能に呆気に取られてしまった。


「…凄…、いえ…。ごほんっ!
これは、もしかして…そうかもしれないわね。」


「これが、書物に載っていた宝石箱なのだとしたら…」


ベス帝王がシラユキを見ると、シラユキは深重に頷きフウライに目配せした。


緊張が走る中、フウライは古びた宝石箱を開いた。


すると……!!!!??




「…こ、これは…!!?」





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