黙って俺を好きになれ
一人で観に行くかを迷っていたのはテレビドラマの最終章に当たる作品で。サスペンスに純愛が絡み合うストーリーが幹さんの趣味じゃないだろうことは百も承知だった。隣で爆睡されても見ないふりをしようと最初から納得していた。

入場前に山脇さんから二人分のドリンクを手渡され、指定のスクリーン席につく。さすがに上映中はボディガードの必要がない判断なのか、入り口で黙って見送られた。

幹さんも彼を空気のように扱って会話することもない。そういうものなのか、気を許せる相手じゃないから。・・・なのか。

予告編が流れ出す。と同時に髪を撫でられる感触に思わず隣を見上げた。妖しく口角を上げた横顔が浮かび上がり、内心で溜息を吐く。これは集中させてもらえないパターンかも、と。

・・・・・・筒井君は私と似ていて。予告編から見逃せないタイプだったと思う。エンドロールの最後まで席を立たないところも。

嬉しそうにふにゃふにゃしていた笑顔がよぎって。見えない刃先で切られたような痛みを胸に覚えた。じくじくと脈打ち、堪えて眼差しが歪む。

・・・・・・もう彼は。着ぐるみを脱いで私に意地悪く言ったりもしない。先輩後輩にも戻れない。彼女だってすぐできる。結婚だって。

涙が落ちた。暗さと目まぐるしく切り替わる映像に紛れ。幹さんが気付かないようにスクリーンを食い入るように見つめた。

懺悔でも後悔でもない、ただ寂しくて流れた涙だった。




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