黙って俺を好きになれ
私は最後まで一言も答えられなかった。筒井君も強引に返事をもぎ取ろうとはしなかった。

『今日でお得なお試し期間は終了なんで、そのつもりでー。おやすみ糸子さん』

彼らしい少し意地悪で強かな響きがいつまでも耳に残った。





自分の中に在るなにかが(かし)いで。砂を噛むような音を立てた。気がした。

自分が行きたい方へ進んできたはずだった。一本道のはずだった。目の前に現れたのは、知っていてずっと見ないフリをしてきた別の道。




目を逸らしたのに。消えないもう一本の道。



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