こじらせ社長のお気に入り
「失礼します」

静かにドアを開ければ、何やらピンクな雰囲気が……
向かい合わせに座ってはいるものの、山川さんは身を乗り出して、社長の手に触れている。

「あっ、笹川さん、ありがとう」

社長の声を聞き流しながら、入室する。
身を乗り出す山川さんから、少し離れたところにコーヒーを置くと、素早く身を翻した。
今日は社長室に控えていてよいとのことだったから、要は済んだとばかりに、さっさとドアに向かう。

その時……

「颯太ぁ、秘書なんて必要だったの?」

その甘えるような声は、背中がゾゾっとするからやめて欲しい。

「山川さん、仕事中なので。とりあえず戻ってください。それから、やっと秘書が必要なぐらい忙しくなったんだ。山川さんをはじめとする、お客様のおかげでね」

なんともウケの良さそうな笑み付きで、さらっと言ってのけた。その笑みを向けられたら、反論もできまい。
山川さんは残念そうな顔をして体を戻すと、あたかも〝あんたのせいだ〟とでも言うように、私に睨みをきかせてきた。

< 60 / 223 >

この作品をシェア

pagetop