クールな王子は強引に溺愛する
エミリーの質問を聞き、リアムはエミリーの耳元に唇を寄せ囁くように告げる。
「なんだ。まだ、愛し足りなかったか?」
「えっ。ど、どのような……」
「俺の気持ちが届いていないのであろう?」
昨日の艶かしい眼差しを思い出し、顔から火を吹く思いがする。
「けれど、私は夜会に参加しても誰からもダンスの申し込みがないような令嬢でしたのに」
食い下がって訴えると、リアムはため息混じりに言う。
「俺が愛していると言っているではないか。それだけでは不満か?」
エミリーは知らない。エミリーの美しさは、社交界の妙齢な男たちの間では有名だった。誰がエミリー嬢の心を射止めるかと、社交界デビューしたばかりの頃、騎士団で遠征をしていたリアムの耳にまで届いたほどだ。
遠征中、動けぬ俺がどれほど焦ったか。
しかもエミリーの家は傾きかけた伯爵家。家柄に多少自信のある男たちは、こぞって名乗り出たであろう。そこへ来て、キッシンジャー卿が鍵となった。
キッシンジャー卿はエミリーを娶った者は必ずや災いをもたらすと触れまわり、求婚しようとする者を寄せ付けないようにしたのだ。
孤立させ、キッシンジャー卿しか頼れない状況にするつもりだったのだろう。