ヒミツの恋をはじめよう
帰り道、エコバッグを一定間隔で揺らしながら考える。
(しまった、もっと気を付けるべきだった)
外へ出るのに着替えるのが面倒だからといって、部屋着のままで飛び出したことを後悔しても今更遅い。彼女が俺の姿を認知しているということは、何度も彼女の視界に入っていたのだろうと頭を抱える。
(最悪だ……)
二人の様子をよくよく思い出すと、恭司の彼女は俺を見て“あの人”と言った。そして彼女はそれを制していた。ということは、彼女は俺の存在を知っていたということになる。
しかし、彼女は今の俺の姿を見て“難波清人”とは認識していないようだった。もし俺が同じ社内の人間だと知っていたならば、会社で接した時に少しは動揺するはずではないか……?
(なるほど)
彼女へのアプローチの仕方について、道筋が見えてきたように思う。
まずは会社で彼女と接触するより先に、プライベートの姿でいる彼女に近づいてみよう。
自宅のドアを開き、ご飯はまだかと鳴いているロンに「ただいま」と声を掛け、一人頷くのだった。