クールな騎士団長は獣な本能を初夜に目覚めさせる
『マリアは私がお腹を痛めて産んだ、私の子です』
『父親は私だ』
『マリアに父はいません。……先日、奥様の使者を名乗る方が来ました。奥様は引き取って自分の子として育てるつもりだと、そう告げられました』
『なんだと!?』
 妻が妾に使者を送ったことを、把握できていなかったのだろう。父は、驚きを露わにした。
『……渡しません。私は、絶対にこの子を渡しません! マリアは私が育てます!』
 母は私を抱き締める腕に力を篭めて、力強く言い切った。
 ……意外だった。私の知る母は、凪いだ水面のように静かな女性で、声を荒らげることはもちろん、私との必要最低限の会話すら避ける傾向にあった。
 その母が感情的に、私を渡さないと叫ぶ。私の目に、そんな母の姿が、とても奇異なものに映った。同時に、たしかな喜びも浮かぶ。
 母から粗略な扱いを受けた記憶はないが、特段愛された記憶もなかった。だけど今、私を渡すまいと父を睨みつける母の姿に、母性愛以外見つけることは出来なかった。
 少なくとも私に「私は母に愛されていたのかもしれない」と思わせるには十分だった。
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