きみがため
そのとき俺は、優等生であることをやめた。

誰かのために生きる必要なんてない。

君のために、君だけのために、この先は生きよう――あの日の、言葉遊びのように。

君が前を向けるように、背中を押す。

君が困っていたら、見えないところから手を差し伸べる。

そして、いつしか君の前から、あとかたもなく消えるつもりだったんだ。

なのに――。

『よく分からないんだけど、その詩を読んでたら、悲しくて、そして幸せな気持ちになれるの』

弱くて泣いてばかりの君は、少しずつ、僕の心に入り込んできた。

『はると……。よかった、いた』

久しぶりに見た無邪気な笑顔。

もっと笑顔が見たい。

そしてその小さな掌を、ぎゅっと握り締めたい。

その華奢な身体をきつく抱きしめて、自分だけのものにしたい。

そう強く感じたとき、これは恋だと悟った。

――そして俺は、絶望に打ちのめされた。

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