鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 鬼畜の提案によりドライブをすることになって、『行きたいところのリクエストがあれば言ってください』、そう尋ねられたものの、本当にデートする訳じゃなし、『急に訊かれても思いつきません』と私が答えたのに対し、『じゃぁ懐かしいところにお連れします』と言ってきた鬼畜によって連れてこられたのは、空港近くにある海浜公園だった。

 実はこの海浜公園には、小さかった頃、兄や私が飛行機や船が好きだったことから、料亭が休みの時には両親によく連れてきてもらった記憶がある。

 飛行機の離発着や大きな船が行きかう光景を眺めたり、遊具で遊び疲れてお腹がすけば、芝生広場で母が作ってくれたお弁当でお腹を満たし、また飽きるまで兄と一緒に元気に走り回っていた光景が昨日のことのように色鮮やかに思い出される。

 我が家にとっては思い出深い場所だった。

 きっと、兄にでも聞いていたのだろう。

 ……そういえば、その頃だったっけ? 

 老舗料亭『橘』の一人娘だった母と板前だった父が大恋愛の末に結婚したことで、経営者と板前との二足の草鞋《わらじ》を履くことになったらしい父。

 そんな父の姿に憧れて、私も板前になりたいと思うようになったのが、ちょうどその頃だった。

 今では、板前として活躍する女性が居ても珍しいことではないのかもしれないけれど。その頃は、厳格な祖父(七年前に他界)がまだまだ現役で仕切っていて、女性が板場に入るのさえ禁じられていた。結局私は、板場にも入らせては貰えず終いだったんだっけ。

 そんなことを夢見てたこともあったなぁ、と、大人になった今となっては、それもいい思い出だ。
 
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