鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 さっきまであんなに賑わっていた筈の周囲の喧騒もどこかに消え去っていて、まるで私たちふたりだけを置き去りにして、時間でも止まってしまったような妙な錯覚に陥ってしまいそうになる。

 そんな中、ようやく落ち着きを取り戻しかけていた胸の鼓動までが早鐘を打ち始めてしまったせいで、やけに落ち着かない。

 ――な、何よ? 急に。そんな真剣な表情しちゃって。まるで今から告白でもするみたいに。

 ついさっき鬼畜に、不意討ちであんな思わせぶりな言葉をお見舞いされてしまった所為で、可笑しな思考までが浮かんでくる始末。

 速くこの可笑しな状況から逃れたいと思うのに、鬼畜のやけに真剣な眼差しに見つめられているせいで、相も変わらず、私は動けないでいる。

 きっと時間にすると、数十秒ほどの短い時間のはずなのに、やけに長く感じられる。

 そんな短い沈黙を経て、ようやく、なにやら思い切るようにして出された鬼畜の表情と同じような、やけに真剣な声音が聞こえてきたのだけれど。

「……侑李さんっ、僕と――」

 まるでその声を遮るかのようにして、私が手にしていたバッグの中のスマートフォンから突然けたたましく鳴り響いた着信音によって掻き消されてしまったのだった。

 お陰で、妙な緊張感に襲われてしまっていたらしい私は、それらからやっと解放された代わりに、驚きのあまりビクッと肩を大きく跳ね上がらせてしまっていた。
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