鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 驚きを隠せないでいる私が鬼畜と父に視線をやれば、頭を上げた父と鬼畜とがにこやかな笑顔を浮かべて握手を交わし、寄り添い合うようにして見つめ合っている……という、なんとも異様な光景だ。

 父に至っては、だらしないほど緩んでしまっている目尻の笑い皺に、嬉し涙まで滲ませてしまっていて。

 もうすっかり花嫁の父親気取りだし。

 兄に余計なことを吹き込まれてしまっているのだろう父はしょうがないにしても、鬼畜まで。

 ――まったく、何考えてんの? 意味分かんないんですけど……。

 恋人のフリをするとは言ったけど、誰も結婚するなんて一言も言ってないしッ!

 しばし驚きすぎて言葉を失ってしまったものの、腹の底から怒りが沸々とこみ上げてきて、怒りのままに異議を申し立てようと私が口を開きかけたと同時に、意外にも鬼畜から、

「ですが」

という、父と鬼畜との間で交わされた結婚についての話を、あたかも否定するかのような言葉が飛び出してきたものだから。

 すっかりその気になっていた父に兄、私も含めて、虚を衝かれたような表情で鬼畜のことを見つめることしかできないでいた。

 そこへ、鬼畜からまたまた意外なモノが飛び出してくるのだった。

「まだ侑李さんとはお付き合いを始めて日が浅いですし、結婚につきましては、侑李さんのお気持ちを尊重させていただきたいと思っております。

実は、私にとって侑李さんは、初恋の相手のような特別な存在ですので。ゆっくり時間をかけて、私と結婚したいと思っていただけるよう、誠心誠意、努めたいと思っております。

それまで、私たちのことはそっと見守っていただけないでしょうか?」 

 あまりに意外過ぎたせいで、一瞬拍子抜けしてズッコケそうになった。
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