鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 前会長の虎太郎さんは、確か七年ほど前に病気を機に会長職を退いておられたため、入社四年目の私には面識はないのだけれど。

 ーーまさか、子供の頃にチョコレートをもらっていたとは、確かに驚きだ。

 なんて思っていたところに、隣の兄からも、「あぁ、確かに、そんな記憶がある」そんなつぶやきが聞こえて。

 眼を向けると、腕組みした兄がうんうんと感心したように頷いている。

 そこへ今度は、その頃のことを思い返しているのだろうか、とても懐かしそうに円らな瞳を眇めた鬼畜が語る声が聞こえてきて。

「本当に不思議なものですねぇ……。父の記憶のない私にとって父親代わりだった祖父には、子供の時分からよく兄とともに料亭の方に連れて行ってもらっていましてね。

実は……その頃、侑李さんにもお逢いしておりまして。こうして今思い返してみますと、あれが僕の初恋だったのかもしれません」

 その全てを聞き終えた私を含めて、父も兄も、しばらくの間、驚きのあまり言葉を発することも、瞬きさえも忘れて、ただただ鬼畜のことを凝視したままでいた。
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