鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
「そうだぞ? 侑李。隼さんを逃さないように、これからはもっと女らしくしおらしくしないとなぁ?」
すっかり得心した様子の父が私にも話を振ってきて。父の言葉に便乗した兄が、私のことを面白おかしく茶化してきたけれど。
「……えっ? あぁ、うん」
いつものように、兄に応戦して言い返すようなそんな余裕なんてすっかり失くしてしまっていた私は、気もそぞろに生返事を返すのが精一杯だった。
今朝も、本当の恋人のように振舞うようにと念を押されたところだったし。
きっと、用心深い鬼畜のことだから、父や兄に疑われたりしないように、という考えから、咄嗟に思いついたことだったんだろうけれど。
あまりにもサラッと、ごくごく自然な感じであんなことを言うものだから、一瞬、本当にそんなことがあったのかと、信じてしまいそうになった。
でも、いくらその頃のことを思い返してみても、当然鬼畜によって捏造されたことだから、そんな記憶など出てはこなかった。
……けれど、なんだろう? 視界に靄がかかって、なんだかモヤモヤとしてすっきりしないような、釈然とない、この妙な感覚は……。
なにやらすっきりしないながらも、三人の会話に耳を傾けていた私は、面会時間を過ぎたため、父の病室の前で兄とも別れ、現在鬼畜と一緒に光石総合病院の広くて綺麗な廊下を歩いている。