鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
挨拶をし終えたところで、口火を切ったのは、さっきからずっと不機嫌そうな表情で私のことを見据えていたさやかさんだった。
「私と隼との子供の認知と婚姻についての話し合いの場に、元婚約者を同席させるなんて、随分と酷なことをするのねぇ」
その声は、初対面の時同様、如何にも高飛車なご令嬢って感じで。
私のことを気遣うと言うより、馬鹿にしているようにしか聞こえない。
実際、馬鹿にしているのだろうけれど。
ちなみに、同席したいと言い出したのは私だ。
さやかさんが私のことを『元婚約者』と言ったのは、挨拶の時、隼がわざと円城寺社長に対して、『彼女と一緒にパーティーにご招待頂きましたので同席させて頂きましたが、よろしかったでしょうか』と敢えてお断りを入れていたからだ。
それから円城寺サイドには、この一ヶ月の間に、隼と私が婚約を解消したというデマもあらかじめ流してあった。
こんなまわりくどいことをしたのには、勿論理由がある。
隼と要さん曰く、何でも思い通りにならないと気がすまない我儘なご令嬢である円城寺さやかさんが、これから先、妙なことを二度と仕掛けてこないためにも、しっかりお灸をすえておこうと思ってのことらしい。
そのためには、さやかさんの一番の味方であり父親である鳳凰堂デパートの社長を籠絡する必要があるのだという。
どう仕掛けるかまでは聞かされてはいないけれど、隼のことだからきっと勝算があってのことなのだろう。
隼の隣で、これまでの経緯を思い返していたところに、コホンと軽く咳払いをした隼の落ち着き払った声音が放たれた。
「僕は酷なことをするために彼女を連れてきたわけではありません。どうやらさやかさんは、何か思い違いをされているようですねぇ」
隼の声は、いつもより低く淡々としていて、抑揚のないものだった。
おそらく、わざとさやかさんを怒らせるような言い方をしているのだろう。
いよいよ、これまで低姿勢を貫いていた隼の反撃が始まるようだ。