鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 隼がキッパリと言い切ったと同時、綺麗な顔を真っ赤にして怒りを露わにしたさやかさん。

 あたかも般若の如く形相でソファから立ち上がり。

「ねぇ、隼。自分が何言ってるか分かってるの? マスコミなんかに公表したらいい笑いものになるわ。『YAMATO』の副社長という立場上、隼だって困るでしょう? 私と結婚すれば全て丸く収まるんじゃないの? それに、その女との婚約は解消してるんじゃなかったの?」

 中央にあるガラス張りのローテーブルにバンッと両手をついて身を乗り出し、怒鳴り散らすかと思いきや、意外にも泣きそうな表情で隼に訴えかけてきた。

 その所為で、テーブル上のティーセットがガシャンと派手な音を響かせ、その音を掻き消すようにして、腹の立つほどに落ち着き払った低音ボイスで隼が淡々と声を放つのだった。

「婚約解消なんてした覚えはありません。勿論、自分が何を言ってるか当然理解しています。それに立場上、マスコミに公表することでどれほどのリスクを伴うかも少なからず理解しているつもりです。ですが、あなたの要求を呑んで、自分の命よりも大事な彼女との婚約を解消するなんて、そんなこと考えられません」

そうしてそこまで言うと、隣に居る私の方にチラリと甘やかな眼差しと微笑とを向けて、包んでくれている手をぎゅっと強く握りしめつつ。

「例え、社会的地位を失っても、彼女が傍に居てくれるのなら、命がけで幸せにしたいと思っています」

宣言するようにしっかりとした口調で語ってくれた隼の言葉に、思わず泣きそうになってしまい。

 こんな時に泣いている場合じゃないと、泣くのを堪えるのに全神経を集中させて。

 なんとか泣かずに済んだことにホッと安堵していると、次に動きを見せたのは、意外にも、今の今まで静観していた円城寺社長だった。

 当然、娘の肩を持つものと思っていたのに、円城寺社長は予想外の行動に出た。

 なんと、隼の言葉に反撃しようと息巻くさやかさんに向けて、冷水でも浴びせるようにピシャリと、隼に負けず劣らずの落ち着き払った重低音ボイスを放ったのだ。

「さやか、みっともないからやめなさい!」
「だって、お父様ッ!」
「だってじゃないッ! お前はまだ分からないのか? 隼くんはお前のことなど相手にもしていないじゃないか? いくら相手にされないからって子供まで利用するなんて、呆れてものも言えん。隼くんにとっても子供にとっても、いい迷惑だ。いくら娘だからと言っても、もうこれ以上はかばいきれん。隼くんと婚約者のお嬢さんに謝罪しなさい。気に入らないというなら、親子の縁を切る。どうなんだ?」
「……ご、ごめんなさい」
「聞こえない!」
「も、申し訳ありませんでした」

 ふたりのやりとりを聞く限りでは、どうやらご自身の娘のことはよ~くご存じのようで。

 娘の言葉には耳も貸さず、有無を言わせない高圧的な物言いで、娘のことを追い込んでしまわれた。
< 508 / 619 >

この作品をシェア

pagetop