鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 用意された部屋はセミスイートで、一月前に隼が用意してくれていた部屋とはグレードこそ違えど、窓からの眺めは抜群だった。

 あの特別な夜のように、夜になればきっと綺麗な都会の夜景が一望できて素敵な夜を演出してくれるだろう。

 隼にプロポーズされたあの日のことが思い出されて、なんだか感慨深くて。

 まだ一月しか経っていないのに、なんだか酷く懐かしい。

 円城寺さやかさんの件も解決して、隼と私のことを邪魔するものは何もない。

 そのはずなのに、最近ずっと円城寺さんとの件で心配してたせいか、ずっと食欲もなくて体調もなんだか優れなかった。

 すべてが解決したらすぐに元の調子に戻ると思っていたのに、今度はホッとしすぎて気でも抜けちゃったのかなぁ。

 ーー元気だけが取り柄だったはずなんだけどなぁ。

 隼と付き合うようになって、隼に守られているばっかりだから、身も心もひ弱になっちゃってるのかも。

 隼によってふかふかのベッドに寝かされて、ぼんやりとそんなことを考えていると、不意にベッドが僅かに軋む音がして、身体に振動が微かに伝わってくる。

 視線を向けるとそこには、ベッドの縁に腰を下ろした隼の姿があって。

 隼はとても心配そうに私の様子を窺いつつ、いつにも増して優しい声音で気遣ってくれる。

「侑李、病院に行かなくて本当に大丈夫なの?」

 また隼に心配をかけてしまってたようだ。

 なにより、せっかくダークネービーのスリムスーツに淡いブルーのクラシカルなネクタイでパリッとオシャレに決めてるのに、私のせいで表情が沈んでて台無しだ。

 ーーこんなのダメだ。私らしくない。

 このままだったら、隼に甘えてばかりで、益々ひ弱になってしまう。

 これからはちゃんと隼の婚約者として、隼のことをしっかりサポートしていかなくちゃ。

 そのためには、こんなことなんかでいちいち心配かけてる場合じゃない。

「もう、隼ってば心配しすぎ。ちょっと寝不足なだけだから大丈夫。ほら、この通りピンピンしてるからッ! さぁ、早く会場行って、美味しい料理いっぱい食べなくちゃっ!」

 未だ心配そうに私のことを見下ろしている隼にそう言って起き上がろうとした途端に、眩暈に襲われてしまい。

 身体がグラリと傾いてベッドに逆戻りしていて。

「ゆっ、侑李ッ! 大丈夫ッ!? やっぱり病院に行った方がいいんじゃないの? 最近、ずっと食欲もないって言ってたし。侑李にもしものことがあったら、僕、生きていけないよ」

 ただでさえ過保護で心配性の隼のことを余計に心配させてしまう始末だった。

 いつもの如く、『生きていけない』なんて大袈裟なことを言ってくれるのは嬉しいけど、今はそんなことで喜んでる場合でもない。

「隼ってば、大げさだってばッ! ただの目眩や食欲不振くらいで死んだりしないからッ!」

 隼があんまり大げさなことを言うものだから、すぐにフォローしたはずだったのに……。

「だって、僕が作った料理をあんなに『美味しい。美味しい』って言って、いつも僕が心配するほど食べてくれてた侑李が、少ししか食べなくて、『食欲ないから、ごちそうさま』って、残すなんて可笑しいよ、絶対」

 まるで大食らいのような言われ方されてしまったのは、ちょっとショックだったけれど。

 それよりも、隼の言葉に、『癌だったらどうしよう?』とだんだん心配になってきた。

 それは、昨年亡くなった母は違ったけれど、母方の家系に『癌』で亡くなった人が多かったせいだ。

 そのことを思い出した途端、サーッと血の気が引いてきて、おそらくそのせいで、顔色が真っ青になってしまっているのだろう。

「侑李、顔、真っ青だよ? やっぱり気になるから、譲さん呼ぶね? 病院に行くよりはいいでしょう? 見かけはチャラチャラしてるけど、医者としての腕は確かだから」

 隼を早く安心させるつもりが、結局は、余計に隼を心配させてしまうことになり、パーティーどころではなくなってしまっていた。
< 510 / 619 >

この作品をシェア

pagetop