鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
あれから小一時間ほど経っただろうか。
以前お会いした隼の従兄、光石総合病院院長の譲さんを呼ぶという隼の提案に応じることにした私の眼前には、小学生の男子並みの低レベルなやりとりをしているいい歳したふたりの男性の姿があった。
一体どうしてこんなことになっているのかというと……。
あの後、譲さんに電話をかけた隼が、
「譲さんって今日は何か予定ありますか?」
と尋ねたところ、
『久々の休日で、天気もいいし、たまにはひとりで葉山にでも行ってのんびりしようと思ってさぁ』
本日の予定をよく弾んだ声で嬉しそうに答えた譲さん。
対して、ホッと安堵の表情を浮かべてすぐ、ニヤリとした怪しい微笑を湛えた隼。
「暇そうで何よりです。いやぁ、良かった。良かった」
『……ん? 隼? 俺の言ってること聞こえてるのか? あれ? 電波でも悪いのかな?』
「ご心配なく、ちゃんと聞こえてますから。それより、侑李さんの体調が優れないので大至急、帝都ホテルまで来てください」
『はぁッ!? やっぱ聞こえてないじゃんッ! 急患なら、病院に直接行けばいいだろッ!』
「そんな悠長なこと言ってて侑李さんにもしものことがあったらどうしてくれるんですかッ! もう、いいです。よ~く分かりました。譲さんの可愛い奥さんに、『葉山のリゾートホテルに若い看護師連れ込んでた』って、明日にでも匿名電話入れときますから。では、さようなら」
『おっ、おいっ、待てッ! やめてッ! やめてくださいッ! 隼くん。お願いやめてぇ~。今すぐ向かうからぁッ』
「じゃぁ、部屋番号をお教えしますね」
……という経緯で、譲さんの都合など完全無視で話を勝手に進めてしまった隼のせいで、呼びつけられてしまった可哀想な譲さんが隼にグチグチと文句を垂れているのを、隼がノラリクラリとかわしているところだ。
といっても、それもほんの数分のことで。
隼によって、それさえもさっさと強制終了させられてしまった可哀想な譲さんは白衣を纏い、現在私の診察をしてくれている。
私の体調不良のせいでばたついてしまい、気づけばパーティーの開始時間をとっくに過ぎてしまっていた。
「隼、譲先生も来てくださったし、そろそろパーティーに顔出しした方がいいんじゃないの?」
「そんなのダメだよ。侑李のことが心配でパーティーなんて行ってられないよッ」
それなのに、私が何を言っても、隼は一向に私の傍から離れようとしてくれない。
でも、『YAMATO』の社長である要さんの代わりとして出席することになっているのに、顔も出さないなんて、格好がつかないどころか、会社の信用問題にも関わってくる。
ーー『YAMATO』の副社長である隼の婚約者として、未来の妻として、ここはしっかりサポートしないと。
「隼。心配してくれるのは嬉しいけど、私、仕事をおろそかにする人って大嫌い。このまま行かないって言うなら、結婚なんてしないから」
「そんなッ! そんなの酷いよッ! 侑李の事が心配でいてもたってもいられないのに……。でも、言いだしたら聞いてくれないもんね。分かったよ、顔出ししてくる。でも、僕が戻るまで、無理せず、ここでゆっくり休んでいてくださいね? 一時間ほどで帰ってきますから。絶対ですよ?」
「うん。分かってる」
初めこそ聞く耳を持たなかった隼も、ようやく私の思いを汲んでくれたのだった。
「譲さん、侑李さんにおかしなことしたら許しませんから。指一本触れないでくださいね?」
「ハイハイ。特に風邪ってことでもないみたいだし。ただの貧血っぽいから問診はするけど、触診なんてしませんよ~だッ!」
「譲さん、いつまでも不貞腐れてないでちゃんと診てくださいね?」
「誰のせいかなぁ? いきなり電話一本で呼びつけられる方の身にもなってほしいもんだなぁ」
「じゃあ、やる気が出るように可愛い奥さんに匿名電話でもおかけしましょうか?」
「しっかりと診させて頂きますッ」
「じゃあ、侑李さん、いってきます」
「うん。いってらっしゃい」
こうしてなんとか行く気になってくれた隼を見送った直後。
隼も説得できたし、体調不良の原因もただの貧血のようだし、ダブルでホッとしてた私は、この後、譲さんから思いもしなかった質問をされることになる。