鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
「侑李ちゃん、最後に生理がきたのっていつだったか教えてもらえるかな?」
「ーーへ? あっ……えと、確か……先月の……あれ?」
「もしかして、きてないんじゃないの?」
「……はい。元々不順で遅れてるだけかと思ってたんですけど。そういえば……って、え? ええッ!? もっ、もしかしてッ!」
「いや、元々不順だってことだから、ただ遅れてるだけかもしれないけど。おそらく、そうじゃないのかな? うちの産婦人科に予約入れとくから予定のつく日、教えてくれるかな?」
「は、はい」
驚きすぎて心ここにあらず状態のまま、譲さんに言われるままに予約を入れてもらって。
程なくして、譲さんが帰ってから隼が戻るのをひとりで待っている間。
譲さんが居なくなってから時間が経つにつれて、気持ちの方もずいぶんと落ち着いてきた。
まだ、妊娠しているかもしれない。という段階だけれど……。
ーーもしかしたら、隼との赤ちゃんを授かっているかもしれない。
そう思うと、後から後から嬉しさがこみ上げてくる。
一分でも一秒でも速く、隼に会って、隼の顔を見て、自分の口から隼にちゃんと伝えたいーー。
居ても立っても居られなくなってきた私は、隼が戻ってくるまでの時間も待ちきれなくなってしまい、隼の元へ向かうことにしたのだった。
元々、パーティーに出席予定だったので、ホテルの駐車場に着いた時点で、スマートフォンはサイレントモードに設定しクラッチバックにインしていて。
ちょうどその頃、隼からメールが送られていたことに、私が気づくことはなかった。
部屋を出て、パーティー会場の大広間がある一階までエレベーターで向かい、降りてすぐのところで、誰かを探しているのか、会場の出入り口で辺りを忙しなく逡巡する隼の姿を見つけた。
エレベーターホールから出入り口までは結構離れているため、隼は私に気づいてはいないようだ。
私は、逸る気持ちを抑えつつゆっくりと歩みを進めて、あとニメートルほどというところで背後から突然、
「侑李」
そう言って名前を呼ばれ、反射的に振り返ろうとした刹那。
背中にドンッと何かがぶつかるような鈍い衝撃が駆け巡った。
驚きのあまり咄嗟に目を閉じ、何が何だか状況が掴めないなりにも、ただただ必死になって、自分のお腹を庇うようにして抱え込んだ。
それから数秒して、どこからか女性の悲鳴が響き渡った。
気づいたときには、絨毯の敷き詰められた床の上で倒れていて。
私は背中から隼によって包み込むようにしてしっかりと抱きとめられていた。
おそらく隼が私の元に駆け寄ってきてくれたのだろうことは理解できたけれど、一体何がどうなっているかが分からない。
まるで現実味がない。あたかも無音のスローモーションの映像でも眺めているようだ。
そんな中、隼が私のことを背中で庇うように立ち上がったかと思えば、その身体がゆっくりと前に傾いて床に両膝をついた体勢で倒れ込んでしまった。
ゆっくりと半身を起こした私が照準を隼に合わせて目を凝らして見ると、隼のちょどお腹の辺りにナイフのようなモノが見て取れる。
隼がお腹を抱えるようにして倒れ込んでいるため、よくは見えないけれど、辺りには血のようなモノまで見える。
私の脳が、隼が刺されているのだと理解した瞬間。
「イヤァーーーーーーッ!!」
もうパニック状態に陥ってしまってた私は隼の身体に飛びつくように抱きついて、半狂乱で大きな叫び声を放っていた。
その傍らでは、呆然と突っ立ったままでいる結城君が、
「ぼ、僕は悪くない。この男が勝手に……。侑李がいけないんだ。僕が、僕が居るのに、この男と婚約なんてするからいけないんだ」
なにやらブツクサと要領を得ないことを呟いていたその声は私の悲鳴に掻き消され、私の耳に届くことはなかった。