鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 どうやら私は、目の前で隼が刺されたというショックに堪えかねて、意識を失っていたようだった。

 そんな私が意識を取り戻したのは、光石総合病院の病室のベッドの上で。

 その傍らには、ずっと付き添ってくれていたらしい隼の姿があった。

 ーーどうしてこんなところに寝かされてるんだっけ?

 不思議に思いつつ、隼のことをぼんやりと見つめていると、隼に、

「侑李、大丈夫? どこか痛むところとかない?」

いつもとなんら変わらない優しい甘やかな声音で気遣われて、そこで初めてホテルでのことを思い出すこととなって。

「ーー!? はっ、隼こそっ、大丈夫なのッ!?」

 ベッドから慌ててガバッと起き上がった私は、飛びつかんばかりの勢いで隼に迫り、訊き返していた。

「僕はナイフを手で撥ねのけるつもりが、ナイフを掴んじゃって。ちょっと切っちゃったけど、大したことないから安心して?」

隼は私のことを気遣ってか、明るくおどけた声で、包帯で巻かれた痛々しい両掌を掲げて見せてくれている。

 それでも、まだあの時の光景が頭から離れずにいるため、まだ安心できずにいた。

 そんな私を安心させようと優しくけれどしっかりと抱きとめてくれた隼と、

「ほんとに?」
「うん。ほんとだよ。ほら、この通り。大丈夫だっていうのに包帯でグルグル巻かれちゃったけど。傷も浅いし、本当に大したことないから安心して?」

話してるうち、隼が刺されて倒れていたわけじゃなかったのだと分かり。

「……よかった」

 一言だけ呟いたきり、ホッとし過ぎて放心してしまった私は、しばらくの間隼の腕の中でただただ泣き続けていて。

 しばらくして泣き疲れてからも、私は隼の腕の中でずっと隼に謝ってばかりいたようだった。

「……隼、ごめんね。私のせいでこんなことになって。私が被害届取り下げさえしてなかったら、こんなことにならなかったかもしれないのに。本当にごめんね」

 それから一時間ほどした頃には、私の気が済むまでの間、ずっと傍で黙って付き添ってくれていた隼のお陰で、ようやく落ち着きを取り戻すことができていた。

 隼の説明によれば、ちょうど私が部屋から出たタイミングで、櫻井さんからの着信で、結城君がホテルに来ていることを知ったらしい隼。

 私にメールしても電話をかけても反応がないため、ホテルのスタッフに部屋に連絡を入れて貰い。

 隼は結城君が居ないか気にしつつ、部屋に戻ろうとしていたところ、私と、少し離れたところで私の様子を窺ってた結城君の姿を捉えたらしい。

 何を思うでもなく無意識のうちに身体が動いてしまっていたらしい隼は、結城君と私との間に割って入ってきて、それで私のことを抱きとめてくれていたらしかった。

 結城君がナイフを持っていることに気づいたのは、私のことを背中で庇うようにして立ち上がり結城君と対峙したときで。

 長年格闘技や護身術を習っていた隼にとっては、別に怖くもなんともなかったらしい。

 「それで油断してしまったのかもしれない」

 そう話してくれた隼は、さっきも言ってたように、ナイフを手で払いのけ損ねて、刺されそうになったけれど、咄嗟にナイフを素手で掴んだために事なきを得たのだという。

 あの時、両膝をついて倒れ込んだのは、興奮状態にあった結城君をそれ以上興奮させて暴れさせないようにするためだったらしい。

 その甲斐あってか、呆然と突っ立ったままだった結城君は、暴れることもなく、あの後離れたところにいた警察官によって、すぐに現行犯逮捕され、そのまま連行されたらしかった。

 私は隼の説明を聞いてからも、自分のせいで隼にケガをさせてしまったことを責めてばかりいた。

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