鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
結城君に襲われそうになったのに、そのときのことを思い出すのが嫌で被害届を取り下げていたけど。
もしちゃんと被害届を出していればこんなことにはならなかったんじゃないか。
そう思わずにはいられなかったのだ。
そんな私に隼は、酷く申し訳なさそうにそのときの心情を吐露し始めた。
「僕、さっき、ナイフを手で払いのけ損ねたって言ったけど、本当はそうじゃないんだ。本当はあの時、簡単に避けられたんだ。けど、そうはしなかった。何故だか分かる?」
「……」
話してる途中で隼にそう尋ねられても何も答えられずにいると、隼はバツ悪そうにふっと目を伏せ。
「もし今僕が刺されたら、侑李のことをずっと縛っておける。そんな身勝手な考えが、一瞬だけど、頭に過ったんだ。だから、タイミングがずれて払いのけ損ねたんだよ。そんなこと考えてたんだよ、僕は。だからこのケガは自業自得、侑李のせいじゃない。侑李が自分を責める必要なんてない」
隼が話してくれたように、本当にそんなことを隼が考えていたかなんて本人じゃないと分からないけれど、どちらにしても、私のことを想ってのことだと思うと、不謹慎かもしれないけど、素直に嬉しかった。
隼に今の自分の気持ちを伝えようと口を開きけたと同時。
何か言い忘れたことでもあったのか、再び隼が語り始めた。
「それと、もう一つ。あのストーカー男のこと、今度こそ社会から抹消してやりたいとも思った。許せなかったんだ。前回のことも、今回のことも。結局そのことで侑李に自分を責めさせることになった。僕こそ、こんな身勝手な男で、ごめん。良かったね? まだ結婚しないうちに本性が分かって」
「……どういう意味?」
「侑李が僕と一緒に居て辛いこと思い出して、さっきみたいに、自分を責めてしまうなら、僕との婚約は解消しーー」
隼が何を言おうとしているか察しがついて、
「イヤだ。隼と別れるくらいなら死んだ方がマシ。お願い。もう自分を責めたりしないからっ。そんなこと、二度と口にしないで。お願い、隼。お願い。もう絶対責めないからッ」
私は隼の首の後ろに両手を巻き付けて引き寄せた隼に、小さな子供みたいに泣きじゃくりながら必死になって希っていた。
するとすぐに私の身体をぎゅうっと掻き抱くようにして逞しい腕に包み込んでくれた隼が、
「侑李の気持ちを試すようなことして、ごめん」
私の頭を優しく何度も撫でながら謝ってきてくれても、私は泣きじゃくることしかできない。
「侑李には、あんなストーカー男のことなんかで自分のことを責めてほしくない。前回も、今回のことも、悪いのは全部あの男だ。侑李は何も悪くない」
興奮状態でヒックヒックと子供みたいに泣き続ける私に、ゆっくりと言い聞かせるように紡ぎ出す隼のその声が想いが、じんわりと心に滲みてくる。
「あんな男のことなんて微塵も思い出せないくらい、侑李のことを僕がめいっぱい幸せにしてみせるから、覚悟しててね? 侑李」
隼の優しくも揺るぎない声で紡ぎ出される言葉に、感極まった私の涙は益々勢いを増すばかりだ。
私は返事の代わりにコクコクと何度も頷いて、隼の首に両腕を絡ませ縋りつくのが精一杯だった。