鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
僕の誕生日である八月一日。
侑李と一緒に婚姻届を提出した僕は、愛おしい侑李と晴れて夫婦となった。
既に侑李とは一緒に住んでもいたし、さほど変わらないだろうと思っていたのに、新鮮さが薄れるどころか、気を抜くとにやけてしまうくらい、僕は侑李との、ほやほやの新婚生活を満喫している。
入籍前日には、涼に厳重注意されてしまったり、まさか、自分がこんなにも浮かれて舞い上がってしまう日が来るなんて、本当に自分でも吃驚だった。
けれども、そうも浮かれてばかりもいられない。
ーーそろそろ、侑李に若女将の件を話して、なんとか説得しなければ。
ここ数日、侑李との想像以上に幸せな新婚生活のなかで、僕は侑李に切り出すタイミングを窺っていた。
最近の侑李は、悪阻が酷くなってきたのもあって、部屋に閉じこもり状態が続いていて、少し情緒不安定気味だ。
主治医の香澄さんによると、妊娠してホルモンのバランスが崩れてしまうためであって、特別なことではないらしい。
……けれど、PTSDになって、突然仕事を辞めざるを得なかった侑李には、結構なストレスになってるに違いない。
おそらく本人だって気づいてはいないのだろうが、苦手な家事に専念することで、気を紛らわせようとしているのだろう。
そう思うと余計に気ばかりが焦ってしまっていた。
勿論、プランはしっかりと立ててはある。
でも、これまでの僕なら、もっと冷静に打算的に、何でも自分のペースで事を運んでいたと思うのに、侑李のことになると、自分のコントロールさえもできなくなってしまうらしい。
そんな僕は、夕飯を終えて侑李とリビングのソファで寛いでいる時。
僕が居るのに、ずっと料理の本と睨めっこしている侑李の本を取り上げるという、なんとも大人気ない行動に出てしまっていた。
勿論、若女将の件も頭にはあった。
でも、この時の僕には、侑李に構って欲しい。なんていう子供じみた感情の方が勝っていたような気がする。
まぁ、それは、結果オーライとなった今だから言えることだけれど。
「あっ、ちょっと、今見てたのにッ!」
「僕と一緒に居るときは本を見るのは禁止」
「何、子供みたいなこと言ってんのよ。そんなこと言ってたらお腹の赤ちゃんに笑われるわよ?」
「侑李は冷たいなぁ。僕なんて、いつも一緒に仕事してた侑李が居なくなって、寂しくて仕方ないのに」
「そりゃ、私だって寂しいけど。隼に美味しいって言って欲しいから頑張ってるんじゃない。それくらい察しなさいよッ!」
子供じみた僕の言動が元で、侑李のことを怒らせてしまったこの時の僕は、結構焦っていた。
だって、侑李が僕のためにと思って、こんなにも頑張ってくれているのに、僕は、子供じみた理由で、侑李を怒らせてしまった挙げ句、侑李のことを泣かせてしまったのだから。
僕は、早く謝ろうと思うのに、これ以上何かを言ったら余計怒らせてしまうんじゃないかと、そう思えば思うほど気ばかり急いて、動くに動けないでいた。