鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
おそらく隼は、その時の記憶がない私と過ごしたこの夜を特別なものにしようとしてくれていたのだろう。
だからこそ、こんなにも落ち込んでしまっているのだろう。
そう思うと、余計に隼への愛おしさが込み上げる。
それと、隼には恥ずかしく伝えてはいないのだけれど、ここだけの話。
実は、隼がお客様だと知った直後、板場に戻った時のことだ。
『あっ、侑李。隼さんへの料理なら、お前がいちいち席を立たなくてもいいように先付けとデザート以外は遊山箱に詰めてある。すぐに幸子さんに運んでもらうからお前は隼さんについてて差し上げろ。それから、今夜は隼さんで最後だからな』
『……なにそれ、初耳なんですけどッ!』
『あー、心配しなくても、ちゃんと隣に寝床の用意もしてあるから、今夜は泊まっていけ。優しくて頼りになるイケメンのお兄様からの結婚祝いだから、遠慮なく受け取れ。ってことで、お前以外はもうあがるから、戸締まりよろしくな』
『……』
今夜のことをどうも前々から仕組んでいたらしい得意満面の兄によって、ほとんど一方的に事後報告を言い渡されてしまった私は、呆気にとられてしまっていた。
……とまぁ、そういう訳で、今この老舗料亭『橘』には、私と隼しか居ないのだった。
でも、隼の夢を叶えてあげたかったから、私なりに、なんとか若女将として振る舞おうと頑張っていたという訳だ。
兄貴の余計なお節介の上に成り立っていると思うと、少々癪ではあるが、今こうして隼と一緒に居られるのは、多少は兄貴のお陰でもあるんだし、そこはほんの少し、爪の先くらいには感謝してあげることにする。
とまぁ、そんな訳で、諸々問題ない訳なので、依然シュンとしょげてしまっている隼のことを慰めるために、羞恥を堪えて、若女将らしく、しっとりと色っぽく、なっているかは分からないし、自信もないんだけれど。
「隼、特別な夜にしてくれるんでしょう? だったら、私のことを一分でも一秒でも早く、隼で満たしてほしい。ダメ?」
「侑李さんは、そうやっていつもいつも僕のことを煽ってばかり。もう、どうなっても知りませんからね? 本当にいいんですか?」
「うん、いいよ。隼の好きにして、お願い」
「////……ッ!?」
私の渾身のお強請り攻撃に、瞬時に余裕をなくしてしまったらしい隼のこの言動からして、どうやら隼には効き目は抜群だったらしい。
きっと、妊娠してからは身重の私に何かあっては大変だと言って、主治医である香澄先生からも夜の営みについての許可も下りているのに、私の身体のことを一番に気遣って躊躇してずっと我慢していたらしい隼にとっては、もう我慢の限界だったのだろう。
私の最後の一撃に我慢の糸がぷっつりと切れてしまったらしい隼は、顔を真っ赤にして苦しげに、それでも自分の理性をなんとか抑えようとでもするかのように、ゆっくりと私のことを逞しい腕に包みながらそうっと優しく口づけてきた。