鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
けれども、それから数年経って、もうすぐ二十九歳を迎えようとしているのに、主従関係にある王子との関係性が一向に崩れる気配も、進展する気配もなかった。
相変わらず、仕事では頭のお堅い上司ともやりやっていたし、使えない部下の尻拭いばかりで、毎晩ヘトヘト状態。
馴染みのバー『Charm』に赴けば、愚痴ばかりを垂れ流す日々を送っていた。
王子とも、仕事の都合がなかなかあわず、しばらく会えない状態が続いていた、そんなある日。
いつものように仕事帰りにむしゃくしゃした気持ちを晴らそうと、バー『Charm』のカウンター席でひとりチビチビとジントニックを味わいつつ、マスターに愚痴を聞いてもらっていたところへ。
「おっ、やってるやってる。久しぶりじゃん」
ふらりと現れた蔵本の茶化すような声が割り込んできた。
なんでも近々専務から副社長に就任するから多忙らしく、前回王子と会ってから、もう三ヶ月以上経っているということもあって、無意識に王子の姿を追い求めるように視線を逡巡させてしまっていたらしい。
「なんだよ? こんなイケメンが目の前に現れたっていうのに、俺じゃ役不足だとでも言いたいのか? まぁ、いいけどさぁ」
それをいつもは軽く笑ってあしらうはずの蔵本が、機嫌が悪いのかなんなのか、クダを巻いてきたかと思えば、隣のスツールに腰を落ち着けるやいなや、カウンターに突っ伏してしまった。
どうやら既にどこかで呑んできたのか、ずいぶんと酔っ払っているようだ。
下戸だったはずなのにおかしいなぁ。とは思いつつも、たまには酔いたくなることもあるよなぁ。
そう思っていると……。
カウンター内のマスターがコッソリ耳打ちしてきた。
「蔵本、結婚まで考えてた彼女にフラれたみたいでさぁ。ごめんね」
その言葉に、『あぁ、なるほどね』と頷きながら。
ーー私もちゃんと王子に気持ちを伝えてちゃんと失恋でもしたら、そしたら前に進めるのかなぁ。
ふとそんなことを考えて、なんだか無性におかしくなってきて。
気づいたら声に出して笑ってて。
「……んだよ。そんなに笑うことねーだろ? 笑ってねーで、ちったぁ先輩を慰めてみろってんだ。ひっく」
それを隣の蔵本が癪に障ったのか絡んできたまではよかったんだけど、最後にはしゃっくりが止まらなくなって、しばらく、ひっくヒックとしゃっくりと格闘していて。
それをツマミに、マスターが「蔵本のお詫びにサービスね」と言って作ってくれたジントニックをクイッと煽りつつも、王子のことばかり考えてしまうのだった。