鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 その日の放課後になる頃には、夢に出てくる王子様の雰囲気によく似た結城君との不運な衝突事故で受けた私のダメージもずいぶんと癒えかけていた。

 ……というか、もう私の中では、あの事故のことはなかったこととして、胸の奥底へと葬り去っていたのだ。

 すずも初めこそ、運命だなんだとはしゃいではいたけれど、私があまりにも落ち込んでしまっていたからか、昼休み以降は敢えてその話題には触れずにいてくれたのだった。

 すずとは、小学生の頃からの腐れ縁だけれど、こういうなんかあった時には、さり気なく気遣うことのできるすずの優しさには、これまで何度救われてきたか分からない。

 ケンカしてしまった時にも、自分から謝ることができない、本当に素直じゃない私のことも、『素直じゃないなぁ、侑李は』とか言いつつも、いつもすずのほうから歩み寄ってきてくれていた。

 明るくて面白いし、面倒見だっていいし、見た目も身長が百六十センチ近くの私よりも六センチほど低くて小柄だし。髪だって、少し色素が薄い茶色でクセ毛でクルンと緩くカールした肩までの髪が良く似合う可愛い顔立ちをしている。

 本人に自覚はないようだけど、小学生の頃から、男子にも女子にも人気があった。

 そんなすずは、私にとっては、大事な親友でもあり、憧れの存在でもある。

 すずのお陰で、もうすっかり機嫌を取り戻していた私は、放課後になって、いつものように下駄箱から靴を取り出そうとしていた時。

 隣で上履きからスニーカーに履き替えようとしていたすずに、突如、ぐいっと制服の袖口を引っ張られてしまい、驚いた私は靴を床に落としてしまっていて。

「ちょっと、すずー。急に引っ張るから靴、落としちゃったじゃん」

 ムッとなった私が速攻ですずに文句を言いつつ腰をかがめ、そのまま落とした靴を揃えて履こうと右足を突っ込んだところに、さっきまで普通の声のトーンで喋っていたすずが放った小さなひそひそ声が耳に飛び込んできて。

「侑李。あれって、サッカー部のユニホームじゃない? もしかして結城君だったりして」
「////……!?」

 その中に含まれていた『結城君』という言葉に過剰反応を示してしまった私の顔は、瞬時に真っ赤に染まってしまっていた。 

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