鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
そんな私の頭の中には、保健室で結城君とぶつかった瞬間に視界いっぱいに映し出されていた結城君のドアップな顔までが映し出されてしまっている。
そして、『まさか』とは思いつつも、ゆっくり恐る恐る顔を上げて、すずの指さしている方に視線を向けてみれば。
確かに、昇降口の入り口付近の壁にこちらに背を預けて立っている青いユニホームに身を包んだ男子の姿が見て取れる。
けれど、ここからでは少し距離があるし、太陽の光に照らされている所為で、金色がかってキラキラと風に靡いている柔らかそうな髪の色まではきちんと確認することはできなかったから、『結城君』かどうかもよく分からない。
それに、もし仮に、あれが結城君であったとしても、友達を待っているだけだろうから、私には一切関係ないことだろう。
保健室を出る時だって、一応、ちゃんとお礼は言ってあるんだし、もう関わる必要だってない筈だ。
ーー平常心、平常心、しっかりしろッ! 侑李。
そうやって心の中で自分に対して必死に言い聞かせた私は、大きな深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
お陰で、熱くなってしまった顔だって、もう赤くはない筈だ。
気持ちを立て直した私がすずに突っ込みを入れるように声を放つも、
「そりゃ、同じ学校に居るんだからどこにでも居るでしょ?」
「……え? でも」
すずは困ったように眉を八の字に曲げてしまっていて、歯切れも頗る悪い。
どうやらすずは、私が気まずいだろうと気にかけてくれているらしい。
そんな優しいすずをなんとか安心させようと、
「私だったら大丈夫だからっ。ほら、すず、行こう?」
「了解」
明るい声を放った私の声に、ようやく安堵の笑みを浮かべてくれたすずに、私もホッとして、ニッコリと微笑んで見せた。
それなのに……。無情にも、結城君が放った思いの外大きな明るい声が辺りに響き渡ったのだった。
「あー、居た居たっ。高梨さ~んっ!」