【完】スキャンダル・ヒロイン
ガンッと再び運転席を蹴り上げる姫岡さんの不機嫌な横顔。
シュンとして坂上さんは小さくなってハンドルを握る。ルームミラーからちらちらとこちらを気にして顔色を伺う。
…だから坂上さんのせいじゃないって!寧ろ私が勝手にしちゃった事なんだから…逆に申し訳ないよ。
「何故あんな事を………」
横を向いたまま不機嫌な顔をしてそう言った姫岡さん。あんなに心配してくれるなんて夢にも思わなくて。
あんなに焦った顔も悲しそうな顔も初めて見た。
「何でって…あなたは俳優だから…」
「お前だって女だろ!」
怒り口調でこちらを振り向いて言った。
何よ…。いつもお前は女じゃないって意地悪な事ばかり言う癖に
こんな時に限ってそんな真剣な顔をして。
そしてまた落ち込んだように悲しい顔をする。いつもの姫岡さんらしくない。調子が狂っちゃうよ。いつもみたいにしてよ。
’お前なんて俺を庇って当然だ、一般人が。’くらい言ってくれればこっちだって気が楽なのに。
彼の手が伸びて思わずビクッとして目を瞑ってしまった。
けれど頬に温かい手の感触。体はごつごつとしている癖に、なんて柔らかくて長い指先だろう。
私の頬に手を触れて、また切ない顔をして瞳を細める。
「顔に傷が残ったらどうする?」
その言い方はとても優しかった。
機材が落ちて来た背中は痛かったがただの軽い打ち身。
けれどバラバラになった機材のガラスが飛び散って、それが私の右ほおを掠めた。傷は全然痛くは無かった。