【完】スキャンダル・ヒロイン
’おいで’ってきゅんきゅんしちゃう。
イケメンの’おいで’の破壊力のある事よ。
思わず鼻歌を歌って、くるりと振り返ってダイニングテーブルを拭こうとした時だった。
バンッ!と大きな音がしたかと思えば、テーブルを拭く私の手の上に真央の手が重なる。
思わず花火大会で手を繋いだのを思い出して、ドキッとした。
目の前の真央は怒っているというよりかは、切ない顔をしていて――。
「何だよ、今の話」
「へ?」
「シャワーを浴びて…後でおいで?だと?」
や、それは誤解だ。まあ聞き方によってはエロく感じてしまうかもしれないが…。
真央は何故か切ない顔のまま、眉をへの字に曲げて掴んだ手を強く握りしめた。
「何か誤解をしているようだけど?」
か、顔が近い――
硬直して動けなくなってしまう程、美しい顔が目の前にあって私から決して目を離さない。
茶色の猫のような瞳。それは優しい昴さんの黒目がちの丸い目とは大違いだけど、私はその鋭い瞳が嫌いじゃない。その瞳が笑うとすごく優しくなるのをもう知っているから。
ふと、さっきりっちゃんが言っていた言葉を思い出す。
’それって姫岡真央絶対に静綺の事好きじゃん!’
私の手に重なる真央の手のひらが熱を帯びてくる。見つめ合うと、その瞳から視線が逸らせない。逃げられない。
「静綺、ガチで昴が好きなのか?」
「す、好きな訳ないじゃん。だって芸能人だよ…?!」
「俺だって芸能人だ。けれど、普通の女を好きになったりもする」