【完】スキャンダル・ヒロイン

「何だ?お前」

前髪をかき上げて彼がこちらへあからさまな敵意を向ける。

とてもとても恐ろしい顔をしていらっしゃる…。美しい顔が台無しですよ、と言えるわけもなく…怒った顔さえ絵になる男だ。

「あのー…私…」

「誰の許可を得てここに入ってきている?!
まさかお前俺のファンか?それともストーカーか?!」

何か大いなる誤解をされているに違いない。

それでも男は自分勝手に怒り散らして、じりじりと私への距離を詰めだし始めた。

やめて!男の裸を見たことがない!目のやり場に困って体中が熱くなっていくのが分かる。そんな色気を醸し出して私に近づかないで!

「いえ、私はそういったものではなく……」

つらつらと言い訳を並べようと、男は全く聞く耳を持ちやしなかった。

ずかずかと遠慮なくこちらへ歩いてきて、壁側まで押し寄せたかと思えばバンッと大きな音を立てて壁に手をやる。

これは俗にいう’壁ドン。’ドラマや漫画でしか見た事はない。こんなかっこいい男にそれをされたらときめかない女はいないと思う。けれど意とは反して体がぶるりと震えあがる。

美しさは恐ろしいものです。息がかかりそうなくらい近くまで顔を突き出して、そして眉間に皺を寄せてこちらへ凄む。

「あの…本当に誤解です…」

「このブスがッ!人んちに勝手に上がり込んできて気持ち悪ぃんだよ!
警察に通報するぞ!」

今日は人生最悪の日であるという事は既に決定していた。
頼まれてここへやって来たというのに、知らぬ男にファンやストーカー扱いされた挙句
面と向かってブスと言われたのは産まれて初めての経験だった。

けれどもその美しい男は少しも怯むことなく、顔に似合わない失礼な言葉を私へとぶつけ続けた。
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