【完】スキャンダル・ヒロイン
感謝しかない。溢れんばかりのテーブルいっぱいのご馳走に舌鼓。つかの間の穏やかな時間が流れる。
坂上さんも山之内さんもお酒が入っていていつもより陽気だったが、何度も’寂しい’と口にしてくれた。そして山之内さんは大学が始まってからもバイトを続けて欲しいと言い続けていた。
「はぁー…それにしても寂しいわ。静綺ちゃんさえ良ければずっとバイトも続けて欲しいくらいなのに……」
「うーん…実家から遠いんですよね」
通えない距離ではない。
けれど逆に中途半端な仕事をして給料を頂くのは忍びない。
「別にうちは部屋も空いているし、寮から大学に通ってくれても結構なのよ?」
確かに大学は東京だから寮から通うって手もある。けれどそれは……嫌でも真央と顔を合わせる事になってしまう。
そうしたらずっと忘れられない。それどころかあらぬ期待を抱いてしまうかもしれない。そういうけじめのない状況は良くないと思ったからだ。
昴さんも近々自分のマンションへ帰ってしまうかもしれないが、顔を合わせるのは気まずかった。
「いえでもやっぱり中途半端になってしまうかもしれないし…」
「静綺ちゃんのご飯が食べれないのは寂しいわ」
「あの…レシピをまとめた書類も置いていくので、誰か…」
くるりと周りを見回して見たけれど、きっと作る人はいないだろう。
山之内さんは大きなため息をつく。
「坂上、作ってね」
「え~…僕ですかぁ~…?僕に出来るのかなぁ~…不器用なんですよ~…。
それに静綺ちゃんみたいに美味しく作れませんって~」
「またコンビニ生活に戻るのかぁ…」