【完】スキャンダル・ヒロイン
料理は元々好きだったけれど、ここまでモチベーションを保てたのは、私の料理を美味しいと毎日食べてくれた人たちが居てくれたからだ。
昴さんはずっとにこにこして話をしてくれて、その隣で終始不愛想な真央の口から飛び出すのは可愛くない言葉ばかり。
「静綺ちゃんが居なくなるのは寂しいよねぇ」
「はぁー、やっと居なくなってくれると思うとせいせいする」
「俺静綺ちゃんのご飯超好きだったし~」
「こいつはたまに味付けが妙に濃い日もあって、このままだったら血圧が上がり過ぎて殺されるところだった」
「でもさ、いつでも遊びにおいでよ。俺マンションに帰っちゃうかもしれないけど連絡くれたら飛んでいくし」
「フンッ。俺は仕事が忙しいから連絡してくんなよ。’どぉーしても’って言う日があればまあ許してやるけど」
思わず笑ってしまうくらい正反対なふたりだ。
同じくらい綺麗な顔立ちをしていて、かっこいいのに口を開けば優しい王子様みたいな昴さんと、偉そうな王様みたいな真央。
バシッと真央の頭を昴さんが叩くと、「何すんだ!」と横を向いて彼を睨みつける。
天邪鬼な彼の、正反対の言葉は最初は怖かったけれど、今はとても愛おしく感じる。
ふたりは立ち上がり、目を合わせたかと思ったら冷蔵庫の中から大きな箱を取り出した。
「これは?」
四角い大きな箱を出したら、そこから大きなバースデーケーキが取り出された。
チョコレートのプレートの上には、ハッピーバースデーしずきと書いてある。驚いて皆を見回すと、皆笑っていた。
まだ誕生日ではない。
けれど9月の終わりに22歳の誕生日を迎える。誰にも教えていなかったし、敢えて言う事でもないと思っていた。