【完】スキャンダル・ヒロイン
この先もずっと真央の活躍を側で見続けていたかったけれど、岬さんと真央の姿を近くで見つめる自信は無かった。
送別会も終わり部屋に戻った時には深夜の1時を過ぎていた。
魔法はもうとっくにとけてしまっていたのかもしれない。それでも終わらない夢を見続けていたかった。
真央。あなたと出会った事はまるで夢のような出来事。あなたが見せてくれた様々な表情は、私に見た事のない景色を沢山見せてくれた。
コンコンと部屋をノックする音が響いて扉を開けると、そこには出会った頃と同じ美しい容姿を持った男がぶっきらぼうな顔をして立っていた。
雑誌やテレビで見る顔とは全然違う。画面越しで見るよりずっと人間らしい。
少し長い茶色のサラサラの髪。キリっとした眉とスッと通った鼻筋に美しい唇の形。茶色みがかった切れ長の瞳。
初めて会った時はこんなに美しい人間がこの世に居るのかと驚いた。
けれど口を開けばそのイメージはがらりと変わって行って、口は悪いし意地悪だし全く優しさなんて感じなかったのに。実は誰よりも優しい。
不器用で周りから誤解されやすいけれど、繊細で、ちょっぴり天然な所もあるけれどいつだって自分の仕事に真摯に向き合っていた。
俳優姫岡真央が好き。彼の演技が好き。
…でも素の真央はもっと好き。
「どうしたの?こんな夜中にか弱い女の子の部屋に尋ねてきて」
「か弱い女の子とか自分で言うな。お前は図々しいんだよ」
憎まれ口を叩くばかりだけど、照れ屋だという事はとっくに知っていた。
扉の前で立ったまま、視線を少し上へずらして「あー…」と何か言いずらそうに頭を掻いた。