かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
あっという間に、お見合い当日の日曜日がやってきた。
先方との約束の場所は、日本を代表する高級ホテルのラウンジらしい。今私は、そこに向かうタクシーの中にいる。
「はあ……」
流れていく景色を後部座席でぼんやりと眺めながら、重い気持ちを吐き出すようにため息をつく。
窓ガラスに映る自分は、どこからどう見ても“立花くれは”そのもので。見れば見るほど、不安や後ろめたさがどんどん蓄積されていく。
『……よし、できた』
妹に瓜二つな今のこの姿を作り上げたのは、当の本人であるくれはだ。
家を出てくる前、くれはの自室にて達成感に満ちた彼女のつぶやきを聞いた私は、閉じていたまぶたをゆっくりと押し上げる。
そうして鏡の中に映る自分を見て、そのあまりの完成度に息を呑んだ。
くっきり入れられたアイラインも、鮮やかな発色のチークとリップも、普段の自分なら選ばないアイシャドウの色も、手の込んだヘアアレンジも、コーラルピンクのラッフルスリーブワンピースも。
すべてが違えることなく“立花くれは”を構築して、“立花ことは”の影はどこにも見当たらない。
代わりに、今私の傍らにいるくれはこそが見た目だけなら完全に自分で、あまりに非現実的な光景に若干頭が混乱気味だ。
くれははいそいそとメイク道具を片づけながら、機嫌良くハミングしている。