かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
『……くれは、自分で会いたくなった?』


写真を見たときの反応から、こっそり小声で一応訊ねてみる。

するとくれははあっけらかんと『全然。私のタイプは体育会系のマッチョだから』なんて返してきた。ですよね、知ってた……。


ちなみに私のお相手の男性に関しては、父の私物の社内旅行での集合写真を見せてくれたんだけど……くれはのコメントを借りるなら『小さくてよく見えないし!』状態で、残念ながらあまり参考にはならなかった。

父によると『職場で会ったときに携帯を使ってその場で撮ろうとしたんだが、本当に困った顔で「写真苦手なので勘弁してください」と言われてしまった』そうだ。

なるほど、父が私と合うと考えただけあって、このエピソードにはちょっと親近感を覚えてしまう。


相手の男性ふたりにも、父は私たちの顔写真をすでに見せていたらしい。

年明け早々に料亭で母方の祖母の喜寿祝いをしたときのもので、自分の預かり知らぬところで会ったこともない人に写真を見られているというのは、なんだか気恥ずかしいものがある。……まあ、こちらも同じことをしているんだけど。


うまく、いくといいなあ……。

声には出さず、心の中でつぶやく。
タクシーは着実に、目的地へと近づいていた。きっと、あと3分もあれば到着するはずだ。


今日の目標を、事前にくれはと擦り合わせておいた。

そのいち。愛想は必要最低限。
そのに。あからさまに場を壊すことなく、相手の方が『ちょっとこの女性とは合わないな……』と思う程度に空気を読まない言動を心がける。
そのさん。相手の人柄によっては、正直にこちらが結婚に乗り気ではないことを伝えてみてもいい。見極め大事。

……考えれば考えるほど、難しい。でも、やるしかない。
そうしてタクシーは緩やかに速度を落とし、目的のホテル前へと停車したのだった。
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