かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
待ち合わせの10時15分前にエントランスに降り立った私は、いよいよ正面玄関を抜けてホテル内へと足を踏み入れる。

床や壁に大理石がふんだんに使われているメインロビーは重厚感がありながらも、中央に飾られている季節の装花によって華やかに彩られていた。

豪奢なシャンデリアが煌めくラグジュアリーな空間。顔も服装も、いつもの自分とは違う私。
進む足は止めないけれど、非日常すぎる今の状況がいっそう私を心細くさせる。

そんな胸の内を振り切るように目指すのは、父が今回のお見合いをセッティングしたラウンジだ。
ロビーの一角にあるその店の入口はすぐに見つかって、立ち止まった私は何度か深呼吸を繰り返してから、受付のホテルマンに声をかける。


「ご予約をいただいている立花さまですね。お待ちしておりました」


そう言って案内されたのは、窓際にあるふたり用のテーブル席だった。
どうやらお相手よりも私の方が先に着いたらしい。席に先客がいなかったことに、思わず安堵する。

腰を下ろした椅子は座面と背もたれに適度な弾力があって、普段自分が職場で使っている事務チェアとは比べものにならないほどとても座り心地が良い。
とはいえ、この状況でリラックスできるほど私の心臓は強くできていなくて。小さく息を吐き出すことで緊張を少しは逃がそうと試みながら、ぐるりと周囲を見渡してみた。

都会的で落ちついた雰囲気の店内は、天井が高く座席ごとの間隔もほどよく離れているため、とても明るく開放感がある。
この距離感なら、お見合いだなんてセンシティブな場でも隣をあまり気にせず話すことができそうだ。
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