かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
実は本来、このお店は夕方から深夜にかけて営業しているらしい。今日はマスターのご好意で、特別にランチタイムにお店を開けてくれているそうだ。

だから今の店内は、私たちの他にお客さんの姿はない。さっきの気軽なやり取りもそうだけど、こうして営業時間外でも快く貸し切りにしてもらえるなんて、本当に奥宮さんとマスターは親しい間柄なのだと感じられた。


「あの……奥宮さんは、ずいぶん前からここに通ってるんですね」


車のため炭酸水を飲んでいた彼に、グラスから口を離したタイミングで話しかける。

ちなみに私は、アルコールをすすめてもらったけれど自分ひとりが飲むのも気が引けてオレンジジュースをお願いした。奥宮さんは、私の問いかけにやわらかく目もとを緩める。


「ああ、そうだね。初めて来たのは高校生のときだったかな」
「えっ、そんなに前から……!」


というか、高校生でこんなお洒落なお店で食事する奥宮さんすごい。たしかに“らしい”けど。

素直に驚いてみせた私に、奥宮さんがなぜか苦笑する。


「その頃俺、親とあまりうまくいってなくて……家で食事するのが嫌で外に出たとき、たまたまこの店を見つけたんだ。……マスターは、まだガキんちょだった俺の話も対等な目線で聞いてくれて。それがすごくうれしかったな」


遠い日を思い出すようにカウンターの方へ視線を向ける奥宮さんの横顔を、私はぽーっとなって見つめる。
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