かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「さっきの──ぶつかった男の子のこと、だけど」


ちょうどカップの中のジェラートを食べ終えたとき、不意にポツリと声が聞こえた。

それはもちろん、左隣に座っている奥宮さんのもので。私が顔を左に向けたのと、奥宮さんがこちらを見たのは同時だった。

至近距離で視線が交わったことにまた鼓動を速めた私の前で、彼はふわりと笑う。


「立花さんの接し方は最初から最後まで男の子を優しく気遣ってて、すごいと思った。きっと立花さんは、いい母親になるんだろうね」


……どうしてだろう。
私を褒めてくれる奥宮さんの言葉はうれしくて、心臓だってドキドキしていて──なのに彼が浮かべている微笑みがどこか切なげに思えたから戸惑って、とっさに言葉を返せない。

そんな私を見つめる奥宮さんが、ふと表情を真剣なものに変えた。


「あのときは……本当にごめん。今日会えたら、改めてちゃんと謝りたかったんだ」
「……『あのとき』?」


目を逸らせないまま、言わんとしていることがわからずオウム返しに訊ねると、彼は表情を緩める。


「初めて会った日。生活を保証する代わり、言う通りに“社長夫人”を演じろとか、他に男を作ってもいいとか。立花さんには、本当に失礼なことを言ってしまったから」


続けて「申し訳なかった」と頭を下げる彼に、慌てて私は首を横に振った。
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