かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「そんな、もう大丈夫ですから……! あの日だって謝ってもらいましたし、顔を上げてください!」


狼狽えつつもそう声をかければ、奥宮さんがようやく顔を上げてくれて心底ホッとする。

けれども私を見下ろす奥宮さんは眉をひそめ、まだどこかやるせないような表情をしていて。
考えるよりも早く、思わず口が動く。


「あの……奥宮さんがあんなふうに言ったのには、何か、理由があったんじゃないですか?」
「え?」


目を丸くした彼をじっと見上げ、さらに言葉を続けた。


「私、まだ2回しか会ってないですけど……それでも奥宮さんが、とても優しいひとだっていうことはわかってます。だから、あんなふうに言ってたことが本当に不思議で」


話しながら、私はくれはを意識した笑みを浮かべる。
思わずこちらが心を許して、何でも話したくなってしまうような──そんな不思議な魅力がある、人懐っこい笑顔。

今の私は、“立花くれは”なんだから。くれはにならきっと、奥宮さんが心に抱えている何かを吐き出してもらえるはず。

私はやわらかく笑んだまま小さく首を傾けて、奥宮さんの綺麗な瞳を覗き込む。


「もしよかったら、奥宮さんの話、聞かせてもらえませんか? 私が力になれるかはわからないけど、誰かに話すだけでも、気が楽になることもあると思うので……」


そこまで言って冷静になり、マズいと思った。

ついさっき、馴れ馴れしくしすぎたと反省したばかりだったのに──また私は、自分から距離を詰めすぎている。
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