かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
それがどうしたのだろうと首を傾げる私に、奥宮さんは苦笑のようなものを浮かべた。


「実はその【Billion】は、俺の父親が社長をやってる会社なんだ。つまりまあ、俺は創業者一族の直系ってことなんだけど」


突然投下された衝撃の情報に唖然とする。

え……奥宮さんがあんな大きな会社の、創業者一族?


「たぶん、きみのお父上も知らなかっただろうな。俺はこのことを公表してないし」


そんなふうに話す奥宮さんに、私はかろうじて疑問を口にする。


「えと……奥宮さんは自分の会社を持ってますけど、お父さんの跡は継がなくてもいいんですか?」
「俺には兄がいるんだ。父の跡は本人も納得のうえで、昔から兄が継ぐことで決まっていた。……おかげで俺は、ずいぶん好き勝手してこれたよ」


なるほど……そういうことだったんだ。
奥宮さんの、お兄さま。どんなひとなんだろうなあ。

自分のこれまでの“好き勝手”を思い出したのか、また苦く笑ってから奥宮さんが言葉を続けた。


「うちの父は、絵に描いたような根っからの仕事人間で。とある資産家の娘だった母とも、いわゆる政略結婚だったんだ。それでも母は、打算と思惑まみれのはじまりだったとしても……一緒に過ごすうちに自分たちの間にも愛情が芽生えて、いつかは“普通”の夫婦になれるんだと思っていた」


そこで奥宮さんは、ふと視線を私から外して顔を前に向け、どこか遠くを見つめた。
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