かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
……本当に、楽しいな。

楽しくて、うれしくて、ドキドキして──だからこそ、近いうちに訪れる別れをふとした瞬間に思い出すたび、胸が張り裂けそうに痛くなる。

この時間がずっと続けばいいのに、なんて。そんな夢みたいなことばかり、思ってしまう。


「本当に、ありがとうございました。お料理も飲み物も、全部とっても美味しかったです」
「こちらこそありがとう。ぜひ、またおいで」


食事を終えての帰り際、わざわざお店の前まで出てきてくれたマスターに心からの礼を伝えると、優しい笑顔でそんなことを言ってくれた。

一瞬、言葉に詰まる。だけどそれを振り払うように、こちらも微笑んで答えた。


「……はい。また、お邪魔させてください」


少なくとも、きっともう、奥宮さんとは来られない。彼にとって大事なこのお店に私ひとりで訪れることも、許してはもらえないかもしれない。

それだけのことを、今の自分はしている。そしてそのことを、ようやくこれから告げようとしている。

じわりと涙が浮かびそうになるのを必死で堪え、お客さんに呼ばれたマスターが店内に戻るその瞬間まで笑顔を取り繕った。
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