微温的ストレイシープ
「あれ、こんな時間に君ひとり?」
「あ、いえ……すみません、急いでて」
呼び止められたのは飲み屋街でのことだった。
コンビニをあとにしたあと、足早に突っ切ろうとしていたとき。
閑静な飲み屋街で、ひとりの男の人がわたしに話しかけてきた。
「そんな水くさいこと言わないでさぁ。ちょっと付き合ってよ」
両手が塞がっていて、とっさに振り払うこともできず肩を抱き寄せられる。
近くで吐かれる息は、お酒くさくて。
それだけでこの人がかなり酔っ払っていることが伝わった。
「あの、はやくお家に帰られたほうが……家族の方も心配してるんじゃないですか?」
「いないよ」
「へ?」
「もう家に帰っても誰もいない。昨日、子どもを連れて逃げられた」
「ご、ごめんなさい」
条件反射で謝る。
真っ赤になっている男の人は、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
ほおの辺りに涙のあとが見えたような気がした。