微温的ストレイシープ


「ごめんなさい。わたし、無神経なこと聞いちゃって」



きっと家庭のことで悩みのない人なんていない。

大なり小なり、みんな何かしら抱えているに違いなくて。


気軽に聞くべきじゃなかったんだ。

でも男の人はわたしを怒鳴りつけることはなかった。




「いいよ。悪いのは俺なんだ。だって……」

「だって?」

「あいつ以外の女を家に連れ込んだんだから」



おそらくあいつとは奥さんのことを言っている。

そこからだった。



すこしずつ男の人の様子がおかしくなり始めたのは。


真っ赤に充血していた目に、焼き付くような炎が生まれた。




「君、なんかいい匂いするね。あの日連れ込んだ女も、こんな甘ったるい匂いをぷんぷんさせていた」

「っ!わ、わたし、そろそろ行かなきゃ……」



なんとかしてあげたいけど、どうしようもできない。

廉士さんを待たしていることもあり、わたしはそそくさと立ち去ろうとした。


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