【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)
マレーネ姫は恥じ入るように視線をそらした。初めての宿泊を伴う公務で、こんな目にあったら不安だろう。最悪、トラウマになってしまうかもしれなかった。
どうしようかと考えつつも、私には采配出来るような力はない。
「ご無礼でなければ御手を……」
そう言えば、姫はうかがうようにオズオズと私を見た。
メイドの服装だ。怯えきった少女と手を繋ぐくらいは許されるかもしれないと思ったのだ。
「手を繋いでくださるの?」
「私でよろしければ」
マレーネ姫は満開の笑顔で笑った。こんな顔は、幼かったシュテルによく似ていて天使だなと思う。
そっと小指を捕まれて、なんだかくすぐったい。妹がいればこんな感じなのかなと、ほんわりと思う。
「でも、本当はご迷惑でしょう?」
不安そうに見つめる茶色の瞳。この目はシュテルと違う色だ。優しい穏やかな光。シュテルみたいに眩しくない。
「いいえ、光栄すぎて戸惑っております。妹がいたらこんな感じなのかなと思いました」
微笑み返せば安心したように、マレーネ姫が寄り添ってきた。