死のうと思った日、子供を拾いました。
「愁斗が心配して声をかけるなんて一体どういう風の吹き回しだ?」
 新太はまるで信じられない光景を見たかのように、瞳を大きく開いた。

「新太、俺をなんだと思ってんの?」
 愁斗は不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「ド級のシスコンで、姉以外には全く興味がないのかと」
「確かに姉ちゃんは好きだけど、他に気になることがないわけじゃない」
「そっか。よく考えたら、そうじゃないと友達を作ろうとなんてしないもんな」
「う、うるさい」
 愁斗の顔がりんごみたいに赤く染まった。

 新太は何も言わないで、ただ愁斗の頭を撫でた。真希さんが愁斗の背中を撫でた。愁斗はすぐに手足をジタバタして二人にやめるように訴えた。
 二人が触るのをやめると、愁斗はすぐに俺の背中に隠れた。

「え、愁斗?」
 なんで急に俺のそばに来たんだ?
「流希は触んないだろ」
 なるほどね。確かにそうだな。
「ああ。もう少し付き合ってくれるか、愁斗」
「……姉ちゃんがお前から離れないなら」
 ぼそりと呟いて、愁斗は俺から目を逸らした。

「じゃあ真希さんが乗り気じゃなかったら帰るのか?」
「そうだけど?」
 愁斗は新太を見てしっかりと頷いた。
「愁斗、流希さんは友達じゃないの?」
「はぁ? 友達じゃねぇよ!」
 愁斗は大声で否定した。さすがにちょっとショックだな。

「はぁ……。ごめんなさい、流希さん」

「いえ。俺は大丈夫です」

 愁斗はきっと、俺に嫌われたいと思って言ったわけじゃない。人より素直すぎて、空気が読めていないだけだ。……きっと今まで育ってきた環境が特殊だから、どんな発言をしたら誰がどう傷つくのかを理解していないんだ。それなら俺はあからさまに怒ったり悲しんだりするべきじゃない。

「悪いことを言うのはこの口か?」

 新太はそんなことを言って、愁斗の両頬に指の腹を食い込ませた。

「んっ」

 愁斗が声を上げると新太はすぐに手を離して、いたずらっ子みたいに歯を出して笑った。

「何すんだよ!」

「生意気だからイタズラしてやろうかと」
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