冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「今、こんなに複雑に糸が絡まり、各国が拗れてしまっているのは、もとはといえば私がエドガーとの婚姻を破棄したことが原因なのよ。だから私はこれから、その落とし前をつけに行くだけの話なの。……大丈夫。これでリアムが解放されれば、ラフバラもウォーリックを、アイザックお兄様を疑うこともなくなるはずよ」
つまり、リアムを助けるためにウォーリックの第一王女であるリリーが動いたとなれば、ラフバラもウォーリックとの関係を無下にはできなくなるはずだ。
リリーの父であるウォーリック国王の安否は不明のままだが、結果としてリリーの兄であるアイザックの疑いを晴らすことができるのなら、これ以上の好機はきっと他にない。
「おかーたま? おでかけ?」
と、そのとき、オリビアがリリーの腕の中で不思議そうに尋ねた。
「オリビア……」
小さな愛娘の身体を、リリーは再度力いっぱい抱きしめる。
この感覚を、生涯忘れることのないように。
オリビアの心の中で、笑顔の自分が生き続けるようにと願って、リリーは精いっぱいの穏やかな笑みを浮かべてみせた。
「ええ、オリビア。お母様はこれから少し出掛けなきゃいけないの。だからオリビアは、ソフィアとふたりでここで待っていてね」
綿毛のように柔らかな髪を撫でれば、リリーの胸にはオリビアへの愛情が押し寄せた。
少しでも気を抜けば、涙が出そうにもなる。けれどリリーは自分の心を奮い立たせると、愛娘のオリビアへの言葉を続けた。
「これからはソフィアの言うことを、よく聞いてね。ソフィアはお母様と同じように、オリビアのことを愛しているわ」
「リリー様……っ」
そうしてリリーは、ソフィアに頼んで邸の使用人のひとりから町娘の服を借りてもらうと、それをすぐに身にまとった。
使用人には何に使うのかと聞かれたが、ソフィアが町に出る用事ができたのだと誤魔化してくれたらしい。
「リリー様……っ、どうか、お気をつけて」
夕方になれば騎士団の隊員が増員され、ここの警備がより強固なものになってしまう。
町娘の服を着たリリーは商売人を装って邸を出ると、騎士団の前では使用人のひとりを装い、森の先へと向かった。