冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「しょ、食事を届けるように言われてきたんです」
「食事を……? その、野菜を、ですか?」
「ええ、ほら。こちらに、果物がありますでしょう? いくら人質といえど、ろくな食事を与えられなければ衰弱して人質として使い物にならないからと──エドガー様から、仰せつかったのです」
リリーがそう言えば、衛兵は一瞬何かを考え込む素振りを見せてから、ふいっと視線を横に逸した。
「……わかった。とにかく早く、誰かに見つかる前にこちらへ」
「え……? は、はい、ありがとうございます」
そうして衛兵はまた意外にもすんなりと、地下牢へと続く扉を開けてくれた。
暗く、地底の裏側まで続いていそうな階段は、薄汚れた石造りでできている。
ひんやりとした空気が、不気味さを際立たせていた。
先を行く衛兵に習って、リリーは一歩一歩、階段を降りていった。
「ここが、地下牢……」
本当に、地獄にでも来たかのように絶望を凝縮させた場所だと思った。
地下ということもあり当然周囲に窓はなく、松明のわずかな明かりがなければ辺りは一面闇に包まれてしまうのだろう。
かび臭い匂いと、湿った空気に不快感を覚えずにはいられない。
「あなたの探しているお方は、今はこちらにはおりません」
「え……?」
「昨夜、この牢を出て、あるお方のところへと向かったのです」
と、不意に口を開いたのはグラスゴーの衛兵だった。
不思議に思ってリリーが眉間にシワを寄せると、衛兵はやはりどこかで見た覚えのある瞳をわずかに揺らした。
「とにかく、ここは危険です。俺が手引きしますので、あなたは今すぐこの王宮から出て──」
「…………リリー? もしや、そこにいるのはリリーではないか?」
そのときだ。思いもよらない声が、リリーの名前を呼んだ。
驚いたリリーは勢いよく振り向くと、薄暗い牢屋の奥に、見覚えのある人の姿を見つけて目を見張った。