冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
(お父様を止めることは、私にはできないの……?)
リリーの脳裏をよぎるのは、別れ際に見たロニーや、その他の子供たちの笑顔だった。
ロニーと、『またね』と約束をした。
『また必ず来るわ』と言って、いつもどおり笑顔で別れてきたのだ。
(だけど……今ここで、私が少しでもお父様に逆らえば、あの子達の笑顔を奪うことになる)
仮に、もう二度と彼らに会えなくなったとしても、孤児院への支援だけは絶対に打ち切らせてはいけない。
国の争いごとに巻き込まれ、大切な家族を亡くした子供たちにこれ以上、辛い思いなどさせてなるものかと、リリーは拳を強く握ると真っすぐに顔を上げた。
「……お父様の命に、異論などあるはずありません。この度のお話、謹んで、お受けいたします。私はグラスゴー王国のエドガー王子のもとへと、嫁がせていただきます」
再びドレスの裾を持ち上げたリリーは、閉じた瞼と一緒に音もなく頭を下げた。
吐き出した息は悔しさと怒りで震えている。
それでも精いっぱい平静を装うリリーを前に、国王は狡猾な笑みを浮かべて「良いだろう」と嘯いた。
✽ ✽ ✽
「リリー様……どうか、お心だけは強くお持ちください」
その夜、ナイトドレスに薄いショールを羽織ったリリーは王宮内のテラスに立ち、夜空に浮かぶ白い月を見上げていた。
父である国王から政略結婚の話をされて、また数時間。夕食に手を付けなかったリリーを、彼女の侍女であるソフィアは大層心配していた。