冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「──ソフィア。私、今からお父様のところへ行ってくるわ」
「リリー様!? 何を仰るのですか!?」
何を思ったのかリリーは、そう言うとベッドから細くなった足を降ろした。
そんなリリーをソフィアが慌てて引き止め、両手で支える。
「先生、ご診察、ありがとうございました。ソフィア……私は、この子を産むわ」
「な、なにを……っ!」
迷いのないリリーの言葉に、ソフィアは今度こそ目を剥いた。
けれど反対に、リリーのオリーブ色の瞳は宝石のようにまばゆい光を宿している。
それは政略結婚を言い渡される以前の、リリーの瞳の輝きそのものだった。
それに気がついたソフィアは息を呑み、続く言葉を失って黙り込む。
「ソフィア、あなたには心配をかけてばかりでごめんなさい。でも私には、動き始めたこの子の未来を奪うことなど、絶対にできない」
断言したリリーはソフィアが知る、幼く純粋なだけの少女ではなかった。
まるで、今は亡きリリーの母の強さを見ているようで……。ソフィアの胸には言いようのない感動と、最低な決断しか想像できなかった浅はかな自分を攻める思いが押し寄せる。
「それにね、この子が今、私のお腹に宿ったことには何か大きな意味があるような気がしているの」
「意味、ですか……?」
リリーは慈愛に満ちた目で自身のお腹へ視線を落とすと、女神のように穏やかな笑みを浮かべる。
「ええ。だって、この子を産むとなれば、エドガーとの婚姻は破断になる。そうなったらウォーリック王国とグラスゴー王国が手を組み、ラフバラを攻め落とそうというお父様の陰謀を阻止することができるわ」
つまり、リリーが子を身籠ったことで、これから起こる戦争を止めることができるのだ。
国民たちを無益な争いに巻き込み、多くの命を無駄にすることもなくなる。