冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
(彼の容姿で覚えているのは、彼が私やオリビアと同じオリーブ色の瞳だったということと、隻眼であるということ。あと、ローブの隙間から見えた髪の色が、綺麗な黒だったということくらいで──)
その特徴をもとに、兄のアイザックが秘密裏に男を探したが、結局見つけることはできなかった。
もちろん隻眼であるという理由で彼を知る兵士はいた。けれど、皆が口を揃えて言ったのは『気がついたらいなくなっていた』ということだった。
『自分には王宮を守る衛兵という職務が務まらないと思い、逃げ出したのかもしれません』
ある兵士はそう言葉を添えたと言うことだが、リリーとの事情を知る者であれば誰もが、『罰を受けることを恐れて逃げ出したに違いない』と、察することができた。
(ソフィアの言うとおり、彼は本当にただの卑怯者だったのかしら)
リリーは、遠い記憶の中に佇む男に問いかける。
(ねぇ、あなたは、度超え消えてしまったの?)
黒いローブを纏った、どこか神秘的な空気を持っていた人。
もしもリリーが男との子を身籠り、産んだと知ったら、男はどんな顔をするだろう。
『戦争は、誰の心も救わない。憎しみと悲しみの負の連鎖が続くだけだ』
あの晩、交わした言葉も男の想いもリリーは疑いたくはない。
けれど男は、一緒に働いていた周りの人間ですら名前も曖昧で思い出せないような、酷く影と印象の薄い男だったというのは兄のアイザックの報告で聞いていた。
(もう三年が経って、たった一晩会っただけの彼の声も思い出せなくなってきている)
それを、リリーは時々、たまらなく寂しく思う。
しかし反面、もういい加減に男のことは忘れるべきだという諦めにも似た思いもあった。